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あいの向こう側
第1章 凪に沈む
向かいに立つと、
潮の香りに混じって香水の匂いが鼻を衝く。


『何してるんですかぁ?』

『手伝いの帰りだよ』
苦笑しながら答える。


白い肌。
細い肢体に女らしい膨らみ。


梅乃は、
自分の荒れた手を隠した。

『旦那さんは、お元気?』『はあい!
今日もPC叩いてますよぉ』

付け爪に、
耳には穴が沢山空き金具がついている。確か旦那とやらも似た風貌だ。

梅乃の娘は2人ともが黒髪で舌足らずなしゃべり方でもない。


未知の生物に遭遇したように違和感を感じる。


『あたしぃ、
海が好きなんです』
女は唐突に話し出す。

『サーフィンとかぁ、
釣りとか〜。
夏になったら泳げるよね?』ため口になってきた。


『いっぱい遊べるともって、引っ越してきたの。こどもはまだいいや!』


『……そう。
頑張ってね』

『おばさんもね!』

そう笑って再びカツカツとヒール音を響かせ去っていった。




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