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あいの向こう側
第3章 漂う
―――意識が戻ったとき、朱里は病院のベッドに居た。


傍らで母親が青い顔をしてうなだれ、
「あれ……?」
とキョロキョロする朱里に被さり泣き出した。


子供は、
流れてしまっていた。



会社帰りの智弘は息を切らして病室に駆け込んできた。生真面目に〔老婆の荷物を持った〕
と話す朱里を詰った。


なぜ、
どうして?
妊娠初期に重い物を持っちゃダメってことくらい誰だって知ってるぞ!




朱里は「重くなかったし、理由は分からない」と告げたが、
智弘は「なぜそんなに冷静なの?
辛くないの?
人間性を疑うよ」と吐き捨てた。



それから、
ギクシャクしたまま退院し、
数週間過ごすと智弘から「辛すぎて耐えられない」
と別れの宣告を受けた。




よくある話だ。
子供が流れてしまうなんて、
この世にごまんとある。



朱里は、
哀しみすら実感出来ずに呆けていただけだった。
あまりに簡単に、
あまりに突然にお腹から居なくなってしまったから………


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