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あいの向こう側
第3章 漂う
マンションを探して荷物を運び出し、

揉める両家の間で傍観者のようにぼんやりしていた。




部屋を出るとき、
智弘は朱里にこう言った。

「ねぇ、
何で気をつけなかったの?俺にはそれだけが分からない。自覚はあっただろ?
〔少しでも重い荷物を持つ〕ことに躊躇は無かったの?」



重くなかったと言っても伝わらず、

朱里の自己管理の甘さが招いた流産だと決定づけられた。


結局、
何が原因かなんて分からなかった。
あっけなく破談となった。

今では朱里には、
老婆がシワだらけの顔で「お姉さん、ありがとうねぇ」
と笑った瞬間しか記憶にない。

――あんなに熱心に築き上げた愛情が、こんなに簡単に崩れてしまうなんて……………






『宮野さん。
良かったら、
食事でもどう?』

会社帰り、
同部署の先輩男性・花井【はない】が声を掛けてきた。

側で聞いていた果奈未が、肘で朱里をつつく。


(行ってきなよ!
花井さんなら安全だし、気晴らしになるよっ)
と囁いて。


果奈未に押されるように花井の前に出され、
断る理由もなく『じゃあ…』
と食事に向かう。



薄暗い店内はジャズらしきBGMがかかっている。洋食料理店だった。

『宮野さん。
………もう、落ち着いた?』

花井がメガネを掛け直しながら訊ねた。

『はい、
だいぶ…。
すみません、招待状まで出してたのに』

招待状を会社内、
親戚・友人内にも出していたため、
取り止めになったことは皆知っている。流れたことは親い友人にしか知られてないが、今となっては朱里は〔挙式直前で破局した女〕なのだ。


…皆、そっとしておいてくれたけれど。



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