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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第17章
「はぁ~……」
篠宮邸の防音室にヴィヴィの大きなため息が響く。
その声の主は壁が鏡張りになっている一角でしゃがみこみ、床に手を付いて項垂れていた。
スケートの練習時は結っている金髪が、今は少し乱れながらヴィヴィの華奢な肩を覆っている。
三月にサロメと出会ってしまってから、ヴィヴィはネットで調べたベリーダンス教室へ通っていた。
前もって電話しておいたにもかかわらず、トルコと日本のハーフの美夏先生はスケーターのヴィヴィが訪ねてきたことに驚いていた。
しかし、かくかくしかじか事の経緯(いきさつ)を話すと、条件付きでの協力を約束してくれた。
「NHKの密着映像でうちも紹介してくれるなら!」
金の匂いをぷんぷんと感じさせる条件だったが、こちらの
「ヴィヴィがフィギュアの為にベリーダンスを習っていることは、こちらが良いという時期まで秘密厳守すること」
という条件をすんなり受け入れてもらえたので、交渉は成立した。
毎週土日は一時間でもレッスンを受けるようにし、レッスンのない日も朝比奈に撮影してもらったレッスン動画を見ながら家でコソ練をするという日を一ヶ月繰り返し。
ようやくヴィヴィのベリーダンスは、見るに堪えるレベルにまで上達していた。
けれど――、
(む、胸……だれか、余ってる胸、私に下さい……)
美夏先生はヴィヴィのために一連のベリーダンスの動作を組み込んだ振付を考えてくれた。
曲は数ある中からヴィヴィが選んだ。
Amiret el Sahara(Desert Princess)というダラブッカ(打楽器)を主流としたエジプト打楽器だけで編成された曲だ。
その曲の振り付けの中でジル(フィンガーシンバル)の音が効果的に使われているのだが、その時の振り付け――胸を左右に大きく揺らす――をする度に、ヴィヴィは自分の扁平すぎる胸に打ちひしがれてしまうのだ。
(いや……世の中見た目だけじゃないよね……じゃないと、ベリーダンスって完璧BODYの人しか踊れないってことになるじゃあないかぁっ!)
そう強引に結論付けるとヴィヴィはすくと立ち上がり、振り付けを確認する。
チェストサークルというその名の通り胸で円を描く動きをさらう。