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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第91章               

 飛び抜けて美しい男だと思う。

 英国の血と日本の血の良いとこ取りをした、端正で知的な顔。

 9頭身の肢体は、本人の努力もあって逞しく引き締まり、彫像の如き耽美さがある。

 知性、体力、家柄に恵まれ、その将来は大企業の頭取という約束された地位があり。

 こんなに全てに於いて恵まれているのに。

 女だってとっかえひっかえ出来るだろうに、どうして『妹』だというだけで自分に執着してくれるのか、全く分らない。

「綺麗……」

 ヴィヴィの薄い唇から零れたのは、ほぼ吐息と化したその呟き。

 大きな瞳は夢見るようにうっとりと、匠海の引き締まった裸体に見惚れていた。

 だから気付くのが遅れた。

 兄が苦しそうに自分の制服姿を見下ろしていたのを。

(お、お兄ちゃんの……、やっぱり大きいな……。ヴィヴィ、他の男の人の見たことないけれど……)

 早く匠海のその分身を自分の中に迎え入れて、愛してあげたい。

 包み込んで受け止めてあげたい。

 その熱情も、欲望も、出来るならば、その心も――。

 そう胸を高鳴らせ、そして自分も感じるであろう果てしない愉悦を期待し、瞳の下を染めていたヴィヴィだったが、何時まで経っても自分に覆いかぶさってこない匠海に、さすがにその異変に気づき始めた。

 自分の腰辺りに膝立ちで跨った匠海が、何故か微動だにせずそのままヴィヴィを見下ろしているのだ。

「………………?」

 不思議そうに兄を見つめたヴィヴィは、その匠海の表情に息を飲んだ。

(どう、して……?)

 ヴィヴィの灰色の瞳が、動揺した様に小刻みに揺れ動く。

 何故、そんな悲しそうな顔をしているの?

 何故、そんな泣き出しそうな瞳で自分を見下ろしているの?

 何故、そんな苦しそうに歯を食いしばっているの?

 何故――?

 さっきまで、散々ヴィヴィの胸を嬉しそうに弄っていたのに。

 甘い喘ぎを上げる自分に勝ち誇ったような顔で嗤っていたのに。

 何がお兄ちゃんにそんな顔をさせるの?

「………………っ」

 兄のそんな様子を見ているだけで、ヴィヴィの胸は引き裂かれそうな程苦しさを覚えた。

 快楽の虜になり始めていた頭の中で必死に考えるが、兄を苦しめさせているものなんて、1つしか思い浮かばない。

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