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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
「正直、僕にも解りませんが……。まあ、泣けばすっきりすると、思うので……」
そうクリスが無表情で答えれば、腕の中のヴィヴィが更に大きな声で泣きじゃくった。
ミーティングルームへと連れて行かれたヴィヴィは、そこで散々泣き散らかし、ようやく落ち着きを取り戻した。
「泣き止んだって?」
そう言いながら部屋に入ってきたジュリアンに、ヴィヴィはばつが悪そうな表情を浮かべる。
「す、すみません……。皆さん、お、お騒がせして……っ」
今更ながら恥ずかしそうにそう謝罪したヴィヴィに、泣き止むまでクリスと共に傍にいてくれた柿田トレーナーが苦笑する。
「あははっ びっくりしたよ~。『ヴィヴィちゃんがスケート辞めるって、クリス君と喧嘩してるんですっ!!』て、ノービスの生徒達が泣きながら、スタッフルームに飛び込んで来てね?」
「え? 泣きながら……?」
柿田の言葉に、ヴィヴィは不思議そうにそう聞き返す。
「そりゃあ、ヴィヴィもクリスも、小っちゃい子達の“憧れ”だからね? みんな『将来、ヴィヴィちゃんみたいになりたい』、『クリス君と同じ舞台で滑ってみたい』って、頑張って毎日練習しているんだよ」
「し、知らなかった……」
ヴィヴィはリンクに来ているちびっこから先輩まで、皆と仲が良く、いつも普通に喋ったり遊んだりしていた。
“憧れられている”だなんて、感じた事すら無かったのだ。
「でも、もう大丈夫でしょう……? ヴィヴィ、辞めたりなんか、しないよね……?」
そう言って自分の手を握って見上げてくるクリスのその確認に、ヴィヴィはしっかり握り返し、頷いてみせた。
「うん。スケート辞めるなんて言って、本当にごめんなさいっ ちょっと……いや、ヴィヴィだいぶ、おかしくなってました……」
母と柿田トレーナーに向き直って深々と頭を下げたヴィヴィに、2人とも「「よ、良かった……」」と心底脱力した様に零したのだった。