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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章            

 たまにヴィヴィの片手を解き、くるりとその目の前で回し、悪戯っぽく微笑んでくる。

 ヴィヴィの強張っていた小さな顔がふっと緩む。

(なんで……)

 ふと胸の奥に湧き上がった小さな疑問が、瞬時に大きく膨れ上がる。

(なんでヴィヴィ、スケート辞めるんだっけ……?

 そもそも……、

 なんでヴィヴィ、スケート辞めなきゃいけないんだっけ……?

 なんでヴィヴィ、 “大好きなスケート” 辞めようだなんて――っ)

 ヴィヴィは繋いでいる右手を握り締め、目の前のクリスの胸に飛び込んだ。

「えっ!? わ……っ! ……っ いたた……っ」

 咄嗟の事で妹を支え切れなかったクリスが、ヴィヴィを抱き留めたままどすんと後ろに尻餅をついた。

 痛そうに顔を顰めているクリスに、ヴィヴィがぼそりと呟く。

「……ねえ、クリス……」

「うん……?」

「なんで、ヴィヴィ……、スケート辞めなきゃ、いけないんだっけ……?」

 クリスの胸に顔を埋めながらそう尋ねたヴィヴィに、双子の兄が首を傾げたのが、その動きで分かった。

「…………、う~~ん。気のせい、じゃない……?」

 少しの時間悩んだ挙句、そう答えたクリスに、ヴィヴィは間抜けな声を上げた。

「…………へ?」

(き、気のせい……?)

 胸の中のヴィヴィを覗き込んだクリスは、もう一度言い直す。

「スケート辞めなきゃいけない、って思ったの……、気のせい、なんじゃない……?」

「…………そっかぁ」

 そのクリスの言葉は妙に説得力があった。

 確かに “気のせい” かもしれない。

 だって、「スケート辞めろ」と誰かに命令された覚えもないし、そうしなければならない事情も、 “今のヴィヴィ” にはもう無かったから――。

「そうだよ……。だってヴィヴィは、スケート、大好きでしょう……?」

 そう言って柔らかく微笑んだクリスに、ヴィヴィは素直に頷いた。

「……うん。ヴィヴィ、スケート、大好き……っ ―――っ ふぇえええん……っ」

 いきなり号泣し始めたヴィヴィに、クリスはさほど驚きもせずに抱き上げると、リンクの外へと出た。

 騒ぎを聞いて駆け付けて来たのだろう、サブコーチが驚いた顔で双子を見比べる。

「ヴィヴィ、一体、どうしたんだ……?」

 隣に居た柿田トレーナーも、心配そうに頷く。

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