この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第94章
たまにヴィヴィの片手を解き、くるりとその目の前で回し、悪戯っぽく微笑んでくる。
ヴィヴィの強張っていた小さな顔がふっと緩む。
(なんで……)
ふと胸の奥に湧き上がった小さな疑問が、瞬時に大きく膨れ上がる。
(なんでヴィヴィ、スケート辞めるんだっけ……?
そもそも……、
なんでヴィヴィ、スケート辞めなきゃいけないんだっけ……?
なんでヴィヴィ、 “大好きなスケート” 辞めようだなんて――っ)
ヴィヴィは繋いでいる右手を握り締め、目の前のクリスの胸に飛び込んだ。
「えっ!? わ……っ! ……っ いたた……っ」
咄嗟の事で妹を支え切れなかったクリスが、ヴィヴィを抱き留めたままどすんと後ろに尻餅をついた。
痛そうに顔を顰めているクリスに、ヴィヴィがぼそりと呟く。
「……ねえ、クリス……」
「うん……?」
「なんで、ヴィヴィ……、スケート辞めなきゃ、いけないんだっけ……?」
クリスの胸に顔を埋めながらそう尋ねたヴィヴィに、双子の兄が首を傾げたのが、その動きで分かった。
「…………、う~~ん。気のせい、じゃない……?」
少しの時間悩んだ挙句、そう答えたクリスに、ヴィヴィは間抜けな声を上げた。
「…………へ?」
(き、気のせい……?)
胸の中のヴィヴィを覗き込んだクリスは、もう一度言い直す。
「スケート辞めなきゃいけない、って思ったの……、気のせい、なんじゃない……?」
「…………そっかぁ」
そのクリスの言葉は妙に説得力があった。
確かに “気のせい” かもしれない。
だって、「スケート辞めろ」と誰かに命令された覚えもないし、そうしなければならない事情も、 “今のヴィヴィ” にはもう無かったから――。
「そうだよ……。だってヴィヴィは、スケート、大好きでしょう……?」
そう言って柔らかく微笑んだクリスに、ヴィヴィは素直に頷いた。
「……うん。ヴィヴィ、スケート、大好き……っ ―――っ ふぇえええん……っ」
いきなり号泣し始めたヴィヴィに、クリスはさほど驚きもせずに抱き上げると、リンクの外へと出た。
騒ぎを聞いて駆け付けて来たのだろう、サブコーチが驚いた顔で双子を見比べる。
「ヴィヴィ、一体、どうしたんだ……?」
隣に居た柿田トレーナーも、心配そうに頷く。