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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第95章       

 2日ぶりのリンクでの練習を終えた双子は、篠宮邸に帰宅後、クリスのリビングでスケート靴を磨きながら、エプソムソルトの足湯に浸かっていた。

 今日サボってしまった学園祭のダンスの練習の、その進行具合について話してくれるクリスの言葉に、ヴィヴィは笑顔を覗かせる。

「やっぱり、ヴィヴィは、笑ってるほうが、可愛い……」

 そう囁きながら隣の妹の額にそっと口付るクリスに、ヴィヴィはくすぐったそうに笑う。

「クリスのおかげ……。本当に、ありがとう……」

 心底拒絶していたスケートに向き合えるようになったのは、強引なやり方ながらも荒療治をしてくれたクリスのおかげだ。

 双子の兄がこうしてくれなかったら、きっとヴィヴィはより頑なになり、本当に何ヶ月も何年も、氷の上に乗る事は無かっただろう。

 ぺこりと金色の頭を下げた妹に、クリスは小さく頭を振る。

「ううん……。僕はただ、ヴィヴィと一緒にスケートしていきたい……。僕のその我が儘を、通しただけだよ……」

 またそう自分が悪者になって妹を甘やかすクリスに、ヴィヴィは苦笑しながらその頬にキスを返した。

(本当に、なんて優しいんだろう……。なんで、そんなに優しく出来るんだろう……)

「……で、もう1つ、我が儘を聞いて、欲しいんだけど……?」

 そう無表情で続けたクリスに、ヴィヴィの表情が戸惑ったものに変化する。

「あ……。受験……?」

「うん……。まだ、受験勉強は、再開する気になれない……?」

「………………」

 クリスの静かな問い掛けに、ヴィヴィは口を噤んで俯く。

 2日前。

 ヴィヴィは匠海に“人形”と言われ、スケートも受験も将来の夢も捨て、兄の傍に居る“人形”としての生き方を選んだ。

 それが、9ヶ月前から兄に『鞭』を与えられる様になった答えだと結論付け、自分の犯した罪の責任を取ろうと決心したのだ。

 自分を捨てようと――。

 けれどいざ蓋を開けてみれば、匠海は自分に今迄通りでいて欲しいと言うし、「愛している」など酷い嘘をほざいてくるしで。

 もう正直、ヴィヴィ自身も自分の事なのに、これからどうやって生きていけばいいのか分からなくなっていた。

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