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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第22章
そう温かみのある言葉を掛けてくれたジュリアンに、ヴィヴィはゆっくりと顔を上げる。
そして一人で突っ走り続けたその張りつめた糸がとうとう切れたように、くしゃりと顔を歪めた。
「ごめんなさい……か、勝手なことして……ひっく……ごめん、なさいっ!」
子供っぽくしゃくりあげてとうとう涙を流したヴィヴィに、周りの雰囲気がふっと和らぐ。
「ここまで言われたら、しょうがないよなぁ……」
「私達の手で、ヴィヴィのサロメを作り上げましょう!」
「しっかし、すごい執念だったな。今回のヴィヴィは……」
高校一年生になったばかりのまだ幼いヴィヴィが見せた『サロメ』への執着とも取れる、強い拘り――
それにある意味翻弄させられたスタッフ達だが、それをも凌駕したヴィヴィの強い意思に皆が一つになった瞬間だった。
なんとかひと段落した雰囲気に、ずっと傍にいてくれたクリスが素早く動く。
ヴィヴィの赤くなってしまった両頬に冷やした濡れタオルを当ててくれた。
「ああ、可哀そうに……ヴィヴィの可愛い頬っぺたが……真っ赤に腫れ上がって……」
そう呟くと、クリスにしては珍しくジュリアンに責めるような視線を投げかける。
「な、何よ……。それより、クリス――! 貴方はタンゴのレッスンに行ってらっしゃい! あんな演技、タンゴには程遠いわ!! ピアソラが泣くわよっ!」
ジュリアンの攻撃は思わぬところでクリスへと飛び火した。
確かにヴィヴィがサロメのためにベリーダンスを習っている間、クリスはFSのためにヒップホップを習いに行っていた。
つまり、SPの為の準備は皆無だったのだ。
「え……は、はい……明日から行ってきます……」
びっくりしたクリスはどもりながらも、ジュリアンの指示を素直に受け入れる。
その様子がおかしくて涙も引っ込んだ。
タオルで覆われた顔から、くすくすと笑いがこぼれる。
「さ、今日は二人とも帰って休みなさい……振付と、長いフライト。お疲れ様――」
切り替えの早いジュリアンは双子にそう言うと、さっさと次の生徒のレッスンへと頭を切り替えた。
その指示に従い帰り支度をするため、トレーニングルームへと移動しようとした。
その後ろ姿をちらりと見やったジュリアンから、ぼそりと言葉が投げかけられる。
「匠海の言うとおりだったわ――」