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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第23章
「ヴィヴィ、ちゃんと和太鼓の音を聴いて――! もう一度同じところから、やり直し!」
リンクに振付師・宮田の厳しい声が響く。
ゴールデンウィークが終わりロシアから帰国した二日後。
ヴィヴィは宮田からSPの振り付けを受けていた。
リンクに流れるのはヴィヴィが望んだ『和楽器を用いた曲』。
「SPには、AUN J クラッシック・オーケストラの『海の路(みち)』を用意しました」
振付初日――会議室でヴィヴィとコーチ陣を前に、宮田はCDを流し説明を始めた。
その傍らではNHKの三田ディレクターがカメラを回している。
「正味六分の曲です。ヴィヴィから『和楽器を用いた曲』を滑りたいとの要望があったので、これを選びました」
初めは和太鼓の力強い打音から始まり、三味線や箏(こと)の音色が重なる。
そして篠笛(しのぶえ)により提示される主旋律。
それは曲想が変わり続けても繰り返し奏でられ、初見でもすぐに覚えられる。
「綺麗……」
思わずヴィヴィの口から呟きが漏れる。
篠笛と尺八で奏でられていた主旋律は、やがて和太鼓や鳴り物に変わり力強さも感じられる。
尺八の切なさや哀愁さえも感じさせる音色。
そして流れるような箏の鮮やかな刺し色――。
音楽は終盤へと掛けて盛り上がり、主旋律を幾度も奏でながらフィニッシュする。
「凄いっ! 綺麗! しかもカッコいい――っ!!」
ヴィヴィはがばっと立ち上がるとそう賞賛し、瞳をキラキラと輝かせて宮田を見つめる。
すごい食いつきを見せたヴィヴィに一瞬驚いた後笑った宮田は、CDケースをヴィヴィに渡してきた。
ヴィヴィは着席しながら中の説明を読み始める。
(へ~こんなに楽器の種類があるんだ……正直、ところどころ何の音か聞き分けられなかった……)
元々耳のいいヴィヴィだが、初めて聞く和楽器の音は聞き分けが出来ない。
それでも初めて聞く和楽器の音色は新鮮で、繊細で、なによりも奥深かった。
「私も気に入ったわ。いい曲を選んでくれてありがとう、Mr.宮田。それで――テーマはどうする?」
大人しくなったヴィヴィを横目に満足そうに頷いたジュリアンの隣で、サブコーチも頷く。