この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第25章
出されたヴィヴィの両掌になんとなく自分の両手を重ねたクリスだったが、その手はヴィヴィの細い指によりぎゅうと握りしめられた。ヴィヴィは朱色のアイラインが細く施された瞼をギュッと閉じると、小さく唸るようにこう呟いた。
「金メダリストPOWERを、充電~~っ!!」
二十秒ほどそうして微動だにしなかったヴィヴィだったが、やがて自分の名前がコールされてやっと瞼を開いた。クリスの手を開放すると隣のジュリアンを見つめる。
「Smail、ヴィヴィ」
いつも通りの激励を受けたヴィヴィは、二人に対してにかっと笑うと屈伸をしてリンクへと出て行った。
『女子のSP第一滑走が始まります。女子の解説はトリノオリンピック金メダリスト、荒河静香さんです。荒河さん、いよいよ日本の期待の新星――ヴィクトリア篠宮選手の登場ですね』
『はい。多くのスケートファンが今か今かと待ち望んでいた、世界レベルでメダルを取りに行ける選手――ヴィクトリア選手のシニア国際大会初参戦ですからね』
『先の大会でのFP初披露はジャッジは勿論、観客の支持も集め見事成功。今日はSPの初披露となります。ただ心配なのは、第一滑走という順番でしょうか?』
『そうですね。第一グループの一番滑走というのはものすごく不利なんです。通常の場合、最初に滑る第1、第2グループは同じ演技内容でも得点が伸びにくいと言われています。つまりその後から滑る人数が多いので、ジャッジはその分だけ上に点数の余裕を残しておかないといけないので。それにご覧のとおり、六分間練習でも一番滑走者は本番で疲れが残らないように一分ぐらい前から休んでおかないとならず、十分な練習が出来ません。しかし、今回はグランプリシリーズ。参加選手は十名での第一滑走ですので、いい演技ができれば少し抑えられた点数が出たとしても、そのまま独走状態で首位に立ち続けることも可能です』
『なるほど。あまり気にせずいつも通りに滑ってほしいですね。リンク脇には本日見事金メダルに輝いた双子のお兄さんのクリス君も駆けつけています、心強いでしょうね』
『はい、頑張ってほしいと思います』
『曲はAUN J クラッシック・オーケストラの海の路(みち)。振り付けは宮田賢二さんです』
『和太鼓と三味線の音に乗せて最初のジャンプ――トリプルアクセル! 見事綺麗に決まりました』