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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章

(ま……、フィクション、なんだけどね……)
甘い愛の言葉もなく、キスもそこそこに、床やピアノの演奏中にも交わる2人は、ただ単に欲情しているだけにも見えた。
「………………」
ヴィヴィの金色の頭が、木陰でゆっくり下へと落ちていく。
(覚悟してたことじゃない……。映画の内容について、触れられるであろう事は……)
この映画は確かに不倫に焦点を当ててはいるが、だからといってドロドロの愛憎劇という訳でもなく。
不倫と各々クリエイターとしての成功への路を淡々と描きつつ、カール=ラガーフィルドとシャネルのメゾンが、衣装や小・大道具で全面的にバックアップし、贅沢な映像美を創り上げている。
そして、“春の祭典” はもとより、劇中で多用される、ストラヴィンスキーの多彩な音楽。
まさに、大人の映画の極み。
だからヴィヴィは、映画の内容に驚きはしたが、その素晴らしさに魅了され、FPで用いようと思ったのだ。
(なんで、一方的にあんな言い方するんだろう……?
なんで、ヴィヴィに直接言わずに、陰口ばかり叩くんだろう……?
なんで、人を傷つける様なまね、するんだろう……?
なんで、――……)
頭の中に浮かぶのは、そんな疑問ばかり。
相手が一方的に悪いと決めつけて、相手ばかりを非難する言葉。
影口を叩かれる事だけが、苦しいんじゃなくて。
金色の前髪の下、色素の薄い眉がきゅっと眉間に寄る。
(なんで、ヴィヴィ……。あの人達のこと――)
「ヴィヴィ……?」
自分を呼ぶ声にはっと我に返ったヴィヴィは、俯いていた顔をゆっくりと上げる。
いつの間にか目の前に立っていたクリスが、申し訳なさそうにその頭を撫でた。
「ごめん……、待たせたね……。助教に、捕まっちゃって……」
4時限目の情報メディア伝達論の試験内容について疑問を持ったクリスは、その出題者に質問に行っていたのだが。
その帰りに誰かに捕まり、足止めを食らったらしい。
ヴィヴィは半袖から伸びた白い腕を持ち上げると、クリスのトートバッグの柄を掴む。
「……おそ、い……」
「本当にごめん……。お詫びに、カバン持つ……」
ぼそりと呟いたヴィヴィに、クリスはその手から鞄を取り上げると、歩き出した。

