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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第107章
「……――っ」
ざっと音を立てて氷の上に投げ出されたヴィヴィは、息を呑んで転倒の衝撃に耐え、その数秒後に「痛い゛~~っ」と心の中で喚いた。
しばし我慢して痛みが拡散するのを待ち、その細過ぎる身体から力を抜いた。
(何が駄目なんだろ……。助走の姿勢もいつも通り……。スピード、力、方向、タイミングも、変わり無い筈なのに……)
踏み切った直後にいつもの回転姿勢に入れず、そうなると空中で振り回されるは、パンクしてしまうは、で散々な結果となり――こうやって転倒を繰り返す。
ずっと寝そべっていても冷たいし皆の邪魔なので、のっそりと起き上ったヴィヴィは、柿田トレーナーの元へと滑っていく。
「試験期間に入ってから、決まらないねぇ」
柿田のその言葉に頷きながら、ヴィヴィは撮って貰っていた映像を繰り返し見直す。
試験開始から土日を挟んで11日が経過し、その間に徐々にジャンプの成功率が落ちていた。
はやる気持ちはあるものの、自分の頭の大部分は試験の事で埋め尽くされていて。
(いや……。それ以外にも、あるけど……)
焦り、苛立ち、当惑……そんな感情が頭の中のみならず、胸の中までぐちゃぐちゃに掻き乱し、平静でいられない。
正直、ヴィヴィはクリスのように、幾つもの事を同時進行で熟せるほど、器用ではなかった。
頭の中がこんがらがっているからか、動画を見直しても大した事に気付けず。
柿田からトレーナー目線での身体の使い方のアドバイスを受けたヴィヴィは、またジャンプを繰り返す。
ごろんごろん転びまくって、自分で削り貯めた氷の屑で濡れてしまったヴィヴィは、
「ちゅべたい……」
そうぼそりと呟きながら、「ぐすん」と泣き真似をする。
「可愛い……」
いつの間に隣にいたのか、クリスのその囁きに顔を上げたヴィヴィは、「むぅ」と唸りながら薄い唇を尖らせる。
(クリスって……。ヴィヴィが何言っても、「可愛い」って言っとけばいいと、思ってない……?)
そう可愛くない事をぼさぼさの頭の中で思ってしまったヴィヴィは、はっとし。
(あ……、八つ当たり、しちゃった……。しょぼん……(´・ω・`) )
冗談だか本気だか判らない口調で、心の中で反省したのだった。