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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

<ファントム & クリスティーヌ>

 もう引き返すことは出来ない

 これが最後の一線

 もう橋は渡ってしまった

 後は橋が燃え落ちるのを 見ているだけ

 もはや もう戻れない
 ――The point of no return



<ファントム>

 ひとつの愛を 

 ひとつの人生を

 私と分かち合うと 言ってくれるね

 この孤独から 私を導き 救い出して欲しい



 お前と一緒に 

 お前の傍らに

 いて欲しいと 言ってくれるね



 共に どこまでも2人で

 クリスティーヌ 

 私の望みは ただそれだ……



 演奏が最高潮に達する、ファントムの懇願の部分。
 
 そこで、ヴィヴィは思わず、匠海の両目を後ろから覆ってしまった。

 自分の掌で視界を遮られ、兄の奏でるピアノが、ふつりと途絶える。

 踏んだままだったペダルがゆっくりと戻され、微かに残っていた音の余韻さえ、掻き消された。

「……ヴィクトリア……?」

 不思議そうに自分の名を呼ぶ匠海。

「……ヴィヴィ、この曲……好き、だけど……嫌い……」

「え?」

 自分の手の中の匠海の声は、物凄く意外そうなもの。

 何故なら、(ヴィヴィ自身は無意識だったが)クリスの言う通り、

 ここのところのヴィヴィは、私室でこの曲を歌い捲っており。

 その細く愛らしい歌声は、クリスのみならず、匠海の鼓膜をも震わせていたのだから。
 
 頭の中が双子プログラムの事一色で、

 ずっと『オペラ座の怪人』の素晴らしい曲達が、金色の小さな頭の中で鳴り響いていたのだ。
 
 なのに、

「……怖、い……」

 そう呟いたヴィヴィの身体には、指先から徐々に震えが起こり始める。

「怖い……?」

 妹の細い掌を握り締め、後ろを振り返った匠海。

 いつ見ても端正で揺るぎ無い兄の顔を見ても、ヴィヴィの心は変わらず、

 逆に、余計に震えが大きくなっていく。

「なんか……行くとこまで、行ってしまって……。もう、その先には “破滅” しか無い、みたい……」

「………………」

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