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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 自分の言葉に、更に恐ろしさを煽られる様で、

「……こわ、い……」

 そう弱々しく呟いたヴィヴィは、色を失くした顔をくしゃりと歪めた。

 自分でも解からない。

 どうしてこんなに、全てが震え、脅えてしまうのか。

(あの時のヴィヴィは、そんなこと、何も恐れてなどいなかったのに……)

 実兄への許されぬ恋路に、自分を見失っていた14歳のヴィヴィ。

 そんな自分に、ロシア人振付師のジャンナ・モロゾワは、FP『シャコンヌ』のテーマを変更してくれた。

 “迷い戸惑い、狂い――、そして破滅へと導かれる少女”
 
 そしてその翌年、15歳の五輪シーズン。

 ヴィヴィはFPに『サロメ』を選んだ。
 
 自分の欲しいものは何としてでも己で手に入れる――例え、その先にどんな未来が待ち受けていようとも。

 そう、ヴィヴィは何も恐れてなどいなかった。

 ただただ、匠海が欲しくて。

 兄に自分を見て欲しくて。

 しかし、それから何年も掛けて匠海と心を通わすことが出来た今――。

 その先に待ち受けているかもしれない “破滅” を、19歳のヴィヴィは憂いている。

 くすり。

 静かな防音室に落ちる、不穏な空気とは不釣り合いな笑い声。

 それを発したのは他ならぬ、目の前に座る匠海だった。

「可愛いね、本当に、お前は……」

 取られたままの手の甲に、そっと落とされる口付け。

 握られた両手は、とても暖かいのに、

 押し付けられた唇は、物凄く熱く感じるのに、

 足りない。

 今のヴィヴィを――恐怖に怯え、芯から震え上がってしまっているヴィヴィを暖めるには、そんな熱では到底足りなくて。

「……おにぃ、ちゃん……」

「ん?」

「……欲しい……」

 薄い唇から零れた弱々しい声音は、それでも欲情したものだったのに。

「何を……?」

 そう尋ねてくる匠海に、ヴィヴィの白い頬が、少しだけ膨らんだ。

「……いじわる……っ」

(全部、解ってる癖に……。いつもなら、お兄ちゃんから求めてくれるのに……)

 最後に躰を繋げたのは、7月31日。

 葉山の別荘で過ごしたその日から、もう10日も、匠海を感じていなかった。

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