この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
(それでもジゼルは、初恋の人を忘れられなかった。
どれだけ酷い男でも、ジゼルはアルブレヒトの事を、心から愛していたから……)
しかしそうは言っても、恋人もその婚約者も、現世でそのまま結婚し、きっと将来は幸せになる。
やはりそれには、やりきれない思いがある。
ジゼルにあったかは定かではないが、ヴィヴィにはある。
大有りだ。
だから――、
吹っ切れずに「いやいや」と喚く心を、ステップを踏みながら捻じ伏せ、
「貴方が幸せなら、私はいいの……」と偽善者ぶる思考を、限界まで大きく身体を使って踊り、昇華させるしかない。
自分勝手なアルブレヒトには、全く共感出来ないが、
ジゼルの芯の強さ、愛情深さ、そして一種の盲目さには、ヴィヴィは本当に脱帽する。
(ん~……、でも、猪突猛進で周りが見えなくなっちゃうところは、ヴィヴィ、ジゼルと似てるな……)
ヴィオラの旋律が途切れ、静かに響き渡る4の刻を知らせる鐘の音。
“第2幕.終曲”
フルートの穏やかな音色に合わせたイナバウアーは、諦めと哀しみで力無くだらりと背を反らせ、
両腕と共に上半身を後ろに反らしたバレエジャンプは、強がりも込め、重力など無視して精霊ウィリとして飛んでやる。
トウを片手で掴んだスパイラルは、折り畳んでいた上半身が徐々に上がり、
ゆらりゆらりと柳の様に、長い両腕を運ばせる。
高く儚い弦楽器の、息の長い旋律。
フライングから入ったキャメルスピンは、シットスピンへ。
ジャンプをして軸足を変えてからの、レイバックスピン。
そして、ビールマンスピン。
全ての終わりを告げる、フルートの静かな音色。
スピンを回りきったヴィヴィは、左胸の下に両掌を上に向けて添え、
慈愛に満ちた瞳を細め、目蓋を閉じ――俯いた。
4分間、丹精込めて演じたジゼルが、永遠の別れを告げる。