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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

(それでもジゼルは、初恋の人を忘れられなかった。

 どれだけ酷い男でも、ジゼルはアルブレヒトの事を、心から愛していたから……)

 しかしそうは言っても、恋人もその婚約者も、現世でそのまま結婚し、きっと将来は幸せになる。

 やはりそれには、やりきれない思いがある。

 ジゼルにあったかは定かではないが、ヴィヴィにはある。

 大有りだ。

 だから――、

 吹っ切れずに「いやいや」と喚く心を、ステップを踏みながら捻じ伏せ、

 「貴方が幸せなら、私はいいの……」と偽善者ぶる思考を、限界まで大きく身体を使って踊り、昇華させるしかない。
 
 自分勝手なアルブレヒトには、全く共感出来ないが、

 ジゼルの芯の強さ、愛情深さ、そして一種の盲目さには、ヴィヴィは本当に脱帽する。

(ん~……、でも、猪突猛進で周りが見えなくなっちゃうところは、ヴィヴィ、ジゼルと似てるな……)

 ヴィオラの旋律が途切れ、静かに響き渡る4の刻を知らせる鐘の音。

 “第2幕.終曲”

 フルートの穏やかな音色に合わせたイナバウアーは、諦めと哀しみで力無くだらりと背を反らせ、

 両腕と共に上半身を後ろに反らしたバレエジャンプは、強がりも込め、重力など無視して精霊ウィリとして飛んでやる。
 
 トウを片手で掴んだスパイラルは、折り畳んでいた上半身が徐々に上がり、

 ゆらりゆらりと柳の様に、長い両腕を運ばせる。

 高く儚い弦楽器の、息の長い旋律。

 フライングから入ったキャメルスピンは、シットスピンへ。

 ジャンプをして軸足を変えてからの、レイバックスピン。

 そして、ビールマンスピン。

 全ての終わりを告げる、フルートの静かな音色。

 スピンを回りきったヴィヴィは、左胸の下に両掌を上に向けて添え、

 慈愛に満ちた瞳を細め、目蓋を閉じ――俯いた。
 
 4分間、丹精込めて演じたジゼルが、永遠の別れを告げる。

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