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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
弦楽器がこれ以上無いほど悲観的に啼き、金管楽器が重苦しく下降を辿りながら吠える。
フライングから入ったキャメルスピンは、氷と平行に半身を捻り。
自分の命の終わりを感じ取り、運命に身を委ね、両腕を緩やかに垂らしていく。
フィナーレを感じさせる、長くずっしりとしたオーケストラの響きが途切れる。
(ここで、身分違いの恋に破れた “弱いジゼル” はおしまい――)
演技後半。
“第2幕.グラン・パ・ド・ドゥ アダージョ”
ヴィオラの静かで低いソロが朗々と歌い上げる中、リンクの左端に立つ、俯いたヴィヴィ。
腰の前で両掌を上にクロスをするポーズは、ジゼルが精霊ウィリと成り果てた事を物語る。
(精霊となったジゼルは、強いの……)
軸足の左脚に沿い、研ぎ澄まされたブレードがすっと昇って行き、
腰高で曲げられた右脚は、弧を描いた両腕と共に、頭よりも高い位置まで引き上げられる。
両腕を腰前に下しながら右に向き直り、
横に上げていた右脚を身体の後ろへと引き上げれば、氷から垂直に上げられた長い脚が、1本の線を描いているのが見て取れる。
(誰もジゼルの踊りを止める者はいない……。弱かった心臓は、もう時を止めているから……)
そのまま前方へと伸び上がり、軽やかに滑っていく。
バックに滑りながら、胸の高さで前で伸ばして組んだ両腕を降ろし、
全て失った哀しみを湛え、ゆらゆらと上半身を揺らせながら助走に入り、2回転アクセル+3回転トウループを降りる。
そして、間髪入れずに3回転ルッツ。
(第1幕では強者だったアルブレヒトは、この夜の世界では、精霊ウィリの哀れな獲物のひとつに過ぎない……)
3回転フリップ+2回転ループ+2回転ループ の3連続ジャンプを手堅く決めていく。
(女王ミルタの命令通り、自分を裏切ったアルブレヒトを殺す事だって出来る……けれど……)
広いリンク全体を使ったアラベスクスパイラル。
肩の高さに伸ばした右腕と、斜め上へと伸ばした左腕は、まるで空中を飛んでいるかのように軽やかなのに、どこか儚げで。
そして、そのまま踏み切る3回転サルコウ。