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第112章 　 　　　 　 　 　　　

　ヴィオラの静かで低いソロが、ハープの細やかな伴奏に乗せ、朗々と歌い上げる。

　リンクの左端で直立したまま俯いたヴィヴィ。

　軸足の左脚に沿い、銀色に輝くブレードが昇って行き、

　靴の重さなど感じさせずに腰高で曲げられた右脚は、弧を描いた両腕と共に、頭よりも高い位置まで引き上げられる。
　
　両腕を腰前に下しながら右に向き直り、

　ジャッジからよく見える位置で、横に上げていた右脚を身体の後ろへと引き上げていけば、
　
　白い氷から垂直に伸びた細長い脚が、１本の線を美しく描いていた。

「何度見ても、溜息が零れますね……」

　八木沼の賞賛を受けながら、ヴィヴィはそのまま前方へとふわりと伸び上がり、滑り始める。

　バックに滑りながら、胸の前で慈悲を乞うように伸ばして組んだ両腕を降ろし、

　諦めを滲ませた小さな顔は、それでも心の整理が付かないとでも言いたげに、ゆらゆらと腰から上を柳の様に揺らせ、

「２回転アクセル＋３回転トウループ」

　そして、間髪入れずに飛び上がったのは、高難度の３回転ルッツ。

「ルッツの踏切も問題ありません」

　３回転フリップ＋２回転ループ＋２回転ループ　の３連続ジャンプを手堅く決めれば、

　会場中に響き渡る歓声と拍手で、静かな音色は聞こえないほど。

「残るは、あと１つ」

　リンク全体を使ったアラベスクスパイラルは、精霊ウィリを表現する儚げな印象で会場中を魅了し。

「スパイラルからの３回転サルコウ」

「ジャンプ、全て完璧に降りました！」

　興奮した進藤アナウンサーの声。

「ステップ・シークエンス……。深くエッジを倒しながら、気持ちが乗った上半身のたおやかな動き。篠宮選手の魅力が存分に表れています」

　ヴィオラの旋律が途切れ、荘厳に響き渡る４の刻を知らせる鐘の音。

「コレオグラフィック・シークエンス」

　フルートの鎮魂の音色に乗せたイナバウアーは、力無くだらりと背を反らせ、

　両腕と上半身を大きく反らしたバレエジャンプは、腰でわだかまっていた柔らかな白スカートを魅力的にはためかせる。
　
　トウを片手で掴んだスパイラルは、折り畳んでいた上半身が徐々に上がり、

　ゆらりゆらりと宙を舞う精霊の如く、長い両腕を漂わせる。