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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「フライングからの足換えコンビネーションスピン。フリーレッグの使い方も丁寧です」
高く儚い弦楽器の、息の長い旋律。
キャメルスピンから、シットスピンへ。
ジャンプをして軸足を変えてからの、レイバックスピン。
そして、ビールマンスピン。
「回転速度が落ちず、一つ一つのポジションも明確です」
恋の終焉を宣告する、柔いフルートの音色。
スピンを回りきったヴィヴィは、左胸の下に両掌を上に向けて添え、
全てを悟った様に微笑んだ後、目蓋を閉じて俯いた。
「いやあ、凄かったですね……。もう、その一言に尽きます……」
感嘆の声を上げる八木沼に、進藤も同意する。
「ええ。日本だけでなく、世界中から注目されている篠宮選手。場内も始まる前から凄い声援で……逆にプレッシャーにならないかと、ひそかに心配もしたのですが。見事、それをパワーに変え、本当に凄い19歳ですね」
四方に深々と礼を送ったヴィヴィは、情感のこもった演技とは一転、弾ける笑顔でリンクサイドへと戻って行ったのだった。
「ヴィヴィ――っっ!!」
涙を浮かべて娘を抱き寄せるジュリアンを、負けずに強くハグし。
隣で既に両腕を開いて待っていたクリスに、爆笑してその胸に飛び込む。
「よくやったね……。きっとダッドも兄さんも、泣いてるよ……」
クリスの言葉に、ヴィヴィはうんうん頷く。
そして、共に戦うチームメイトの所へ飛んで行き、手を繋いできゃっきゃと喜び合った。
「もうっ 心臓強すぎっ!」と、涙目の宮平。
「いやぁ~、こんなに傍で見られて、俺、幸せ者」と、歯の浮く事を言う羽生。
「すげ~」を連呼するマーヴィンと、
「カッコ良かった、惚れた!」と飛び付いて来た棚橋。
応援に駆け付けてくれた宇野は、初めての五輪でちょっと放心状態のようだった。
皆と喜び合いながらキス・アンド・クライに移るも、中々得点がコールされず。
暇を持て余したヴィヴィは、会場のアップテンポなBGMの乗せ、腰掛けたまま踊っておどけた。
棚橋と宮平が、国旗を手にしながら「「ヴィ~ヴィ! ヴィ~ヴィ!」」と連呼し、
その横では、羽生とクリスが何やら真面目な顔で話し込んでいた。