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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第5章
「ま、“お子ちゃま” なヴィヴィが創ったんだから、ちょっと子供っぽ過ぎるけれど。ヴィヴィ達にとっては、きっと今シーズンが最後の、ジュニアのシーズンになるでしょうからね。“お子ちゃま” でもいいか」
「………………」
( “お子ちゃま” って、2回も言った……っ!!)
バカにされた気がして、知らず知らず ぶ~と、頬を膨らませたヴィヴィだったが、
「じゃあ話は済んだわ。これからリンク使うから、ヴィヴィは出て行きなさい」
と、コーチにリンクから放り出されてしまった。
ヴィヴィと入れ替わりに、ペアスケーティングの2人がリンクに入る。
ペアスケーティングのペアは日本では数少なく、このスケートクラブでも彼ら1組しかいない。
成田達樹と下城舞のペアはお互い19歳で、来シーズンからシニアに上がる。
彼らとは小さい頃から互いを知り、仲の良いヴィヴィは、しばらく2人の滑りを見守っていた。
舞がヴィヴィに気づき手を振ってきたので振り返すと、ストレッチをしにフィットネスルームへと戻って行った。
本日の練習を終え、24時前に篠宮邸に戻ると、ヴィヴィは練習着のまま、真っ先に防音室へと向かった。
だいたいこの時間は、匠海が1人でピアノやチェロを弾いているのだ。
防音室の分厚い扉をバーンと音を立てて豪快に開けると、視線の先に兄を見つけ、大声で発した。
「お兄ちゃん! ヴィヴィ、マムとエキシビの振り付け、する事になったのっ!」
いきなり凄い勢いで登場したヴィヴィに、匠海は少し驚いていたが、
ピアノを弾いていた手を止めると、「おいで」と妹を手招きした。
「どの曲、使うんだ?」
グランドピアノの近くまで小走りに寄って来た妹に、兄は椅子に腰掛けたまま尋ねてくる。
「When you wish upon a star!」
「ふうん。いいね」
そう言うと匠海は鍵盤に長い指を降ろし、即興で『When you wish upon a star―星に願いを―』を弾き始める。
少し色気のあるクラッシック調の、星に願いを。
鍵盤を見つめて伏し目がちにされた目蓋の先では、長い睫毛が色素の薄い頬に影を落とし、
サラサラの黒髪が、緩やかに揺れ。
そんな兄を、妹はグランドピアノに頬杖を付き、うっとりと見つめていた。