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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第5章
どもりながら答え、どやされる前にコーチのいるフェンスから、少しでも遠ざかろうとしたヴィヴィだったが、ジュリアンの反応は予想と違っていた。
「ふうん……」
彼女にしては珍しく、曖昧な相槌を返しながら、胸の前で両腕を組む。
その表情は、何か思案している様にも見えて。
(……………?)
何も言われなかったので、スピンの練習でもしようと、氷を蹴りかけた時、
「もう1回、滑って見せて?」
コーチが思いがけない事を口にしてきた。
「え……? さっきの曲を……ですか?」
「そうよ。ジャンプは適当に、流してでいいから」
ジュリアンはそう言うと、有無を言わさずiPodで曲を流し始める。
ヴィヴィは焦って、所定の位置まで滑ってポージングすると、
先程 即興で滑ったプログラムを、反芻して見せた。
2回目なので、更に情感豊かに仕上げようと、努力してみる。
3分程のプログラムを滑り終え、リンクサイドへ戻ると、ジュリアンはうんうんと頷いていた。
「いいじゃない……」
「え?」
「ヴィヴィのオリジナル? こんなの、いつ作ってたの?」
「今日……学校でこの曲を聴いて、滑ってみたくなって――」
ヴィヴィのその返事に、コーチは目を丸くして驚く。
「今日1日で作ったの!? へえ……まだまだ改良の余地はあるけれど、いいわ。そうね……、今シーズンのエキシビションにしましょう」
今度はヴィヴィが驚く番だった。
「えっ!?」
「なんでそんなに驚くの?」
「だ、だって……」
「私も現役時代、自分で振付したり、コーチと一緒に考えたりしてたのよ?」
「知らなかった……、じゃなかった。知りませんでした」
慌てて言い直す生徒に、コーチはふっと瞳を細める。
「自分の事を一番解っているのは、自分だもの。振付や曲に興味を持つことは、いい傾向よ」
「……………」
てっきり怒られると思っていたのに、珍しくスケートに関しての事で褒められたヴィヴィは、
驚きと嬉しさで言葉に詰まって、コーチの顔を見つめ返した。