この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第32章
「はい。カナダの女子シングルのアグネス・ザワツリー選手は国内大会ですがFPで130点代を出していて、これは篠宮選手に次いで良い点です。日本もメダル圏内にいるとはいえ、まだまだ油断できませんね」
『そうですね。ここで団体戦女子シングルの滑走順をご紹介しましょう。第一滑走フランス――アナイス・ベンタン選手、第二滑走アメリカ――グレイシー・シルバー選手、第三滑走カナダ――アグネス・ザワツリー選手、第四滑走ロシア――アデリナ・ソトニコス選手、そして最終滑走は日本の篠宮選手です』
「このメンバーはそのまま個人戦の最終グループのメンバーになってもおかしくないほどの、実力者達が出そろいました。この中ではヴィヴィ――失礼、篠宮選手とフランスの選手だけがオリンピック初舞台ですし、緊張せずに頑張ってもらいたいですね」
『そうですね……あっ! 今、放送席の目の前で、篠宮選手がトリプルアクセルを飛びましたね?』
「はい、ちゃんと三回転半回り切っていましたね。ランディングもスムーズでいいです」
『アクセルジャンパーの浅田さんのお墨付きを貰った篠宮選手。慎重に各ジャンプの踏切りをチェックして6分間練習が終了となりました』
その後、4カ国の女子シングルの選手が滑り終わっても団体戦の順位はそのまま動かなかった。
最終滑走者のヴィヴィは先に滑ったアデリナ・ソトニコスの点数待ちの間、アクセルジャンプの踏切りを何度も繰り返し確認するとコーチが待つフェンス脇へと戻る。水分補給して鼻を噛み、自分の名前がコールされるのを待つ間、ヴィヴィは眉間に赤い石のヒンディ(インド古来の装飾)を付けた頭をきょろきょろと動かし、広大な観客席を見渡した。
(う~ん……さすがに観客が多すぎて、どこにお兄ちゃんがいるのか、さっぱり分からない……)
ヴィヴィは心の中でそんな呑気なことを考えながら、落ち着いた様子でロシアの選手の得点アナウンスを聞いていた。
ところ変わって、再び日本のTV局の解説席。
『浅田さん。会場からはものすごい日本コールが上がっています』
「韓国は日本から日帰りで来られるほど近いので、多くの日本人のお客さんが駆けつけてくれたのでしょうね。そこかしこで日の丸の旗が振られています。こういうのって海外での試合では、選手はとても勇気づけられるんですよね」