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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第32章
『そうですね。オリンピックの期間中は日本韓国間の飛行機は臨時便が多数用意されていますしね。きっと篠宮選手にも日本のファンの声援が届いているでしょう……と……? おや? 篠宮選手、どうしたのでしょう……口元を抑えて、なんだか苦しそうに肩を大きく震わせていますね?』
「本当ですね、どうしたんだろ……あれ……? 気のせいか、なんか、笑ってません? というか……お腹抱えて爆笑していますよね?」
浅田が訝しげな声を上げる。すると注意深く観察していたアナウンサーが合点したように声をあげた。
『ああっ! あれですよ、浅田さん。村下選手と宮平選手が両手を掲げて……こう、なんでしょう……多分、念を送っているのでしょうね?』
「あはは! 何やってるの、カナってば!」
解説中なのに素に戻った浅田が明るい声を上げて笑う。
『浅田さんとも仲の良い村下選手ならではの励ましなのでしょう、本当に仲の良いチームジャパン! さて先輩方の助けを借りてどれだけの演技を見せられるか』
「篠宮選手、とても落ち着いた表情をしていますね」
『時間いっぱい使ってスタートの位置につきました。漆黒の闇に血が滲んだ様な深紅の衣装に身を包み――篠宮ヴィクトリア選手。曲はリヒャルト・シュトラウス作曲、サロメより「7つのヴェールの踊り」』
アナウンサーの言葉と共に、曲が広大なリンクに響き渡る。
「いいですよ、動きも滑らかで緊張はしていないようです」
『まずは序盤のトリプルアクセル……決まった――っ!!』
「もうスロー再生で見なくても、確実に回転していましたね」
『一つ目のトリプルアクセル成功! しかしまだ油断できません。凝った入り方からの、トリプルアクセルと三回転のコンビネーションジャンプ……どちらも高い!』
「イーグルからのトリプルアクセル、トリプルトゥーループ。そして……トリプルフリップ、ダブルトゥーループ」
『そして今シーズンの篠宮選手の魅力が一杯詰まった、妖艶な振付でジャッジにアピールします』
「篠宮選手の持って生まれたスター性なのでしょう。視線や動作のひとつひとつにまで見ているこちらが『つい目が追ってしまう』のですよね」
『本当ですね。次の三連続ジャンプはどうか?』