この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 もはや兄に掛ける言葉は何も無く。

 よろよろとした足取りで寝室を出て行く。

 互いの部屋の境界線をくぐり抜けた途端、全身にどっと疲労が押し寄せ。

 必死に重い脚を運び、何とか白革のソファーの上へと身体を投げ出す。

 もう、何が何だか解らなかった。

 自分は、

 自分は、ただ匠海に幸せになって欲しかった。

 ただそれだけの為に、こうしたつもりだったのに。

 死ぬ気なんて無かったし、殺す気なんて無かった。

 最初から。

 ただ、本当に殺してしまって、この世から抹殺してしまいたいものが、ひとつだけあった。



『お前がどんな過ちを犯そうが、俺は結局お前を許してしまう。ヴィクトリア……、お前が何をしようが、“俺の中のお前” は殺せはしないよ』



 そう。

 ヴィヴィは “それ” を殺してしまいたかった。



 ヴィヴィの心からはいなくなってしまった、愛していたかつての匠海。

 けれど匠海の中では今でも、かつてのヴィヴィが生き続けていて。

 それが兄を苦しませているのだと判ったから、殺してしまいたかった。

 何故なら、本当にもうヴィヴィはいないから。
 
 兄の深い愛情に包まれて、

 何の不安もなく一心に匠海への愛情を育み与えていたヴィヴィは、もういないから。
 
 そんな過去の亡霊に縋り付き、罪を重ね続けるよりも、

 目の前にいる、兄を愛してくれる婚約者とその子供がいる。

 その手の届く幸福に、気付いて欲しかっただけなのに。



『今すぐは無理でも、お前は絶対に俺の元へと戻って来る。

 お前は俺がいないと駄目だから――。

 俺がいないと生きていけない――そういう子に仕立て上げたのだからね』



 ぐるぐると頭の中を駆け巡る、匠海の真実の告白。

 兄の裏切りを知ってから、その口から発せられる言葉はどれもこれも嘘に思えたし、何もヴィヴィの心に響かなかった。

 しかし皮肉な事に、その告白だけは、

 明確な真実としてヴィヴィの中にすとんと落ちてきた。

(そう、なのかも知れない……)
 
 虚ろな瞳が暗闇の広がるリビングを彷徨い、
 
 それはやがて、諦めた様に動きを止める。

 そしてその空虚な頭の中を占拠するのは、

 他でも無い匠海自身が、ピアノで奏でた、その曲――


/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ