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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「お願い、ヴィクトリア。俺を受け止めて――?」

「………………」

 首筋に埋められていた顔が持ち上がり、

 熱に浮かされた双眸と共に、徐々に自分へと降りてくる、張りのある唇。

「ぃ……やっ いやぁ……っ!!」

 咄嗟に叫んで顔を背けたヴィヴィ。

 それでも構わないという風に、曝け出した首筋に匠海の唇が押し付けられた。

 その途端、

「……~~っ!? っ つぅ……っっ」

 暗い寝室に響いたのは、苦痛を訴える掠れた声。

 びくりと兄の躰が震え、離された唇。

 兄の躰の下で、妹は脂汗を浮かべ、悶絶していた。

 流石に両手首の拘束を解けば、瞬時に薄い腹を両腕で掻き抱き庇うヴィヴィ。

 兄から受けた衝撃に耐えられず、胃が悲鳴を上げていた。

 少しでも匠海から離れたくて、黒いシーツの上をみっともなく這って逃げる。

 ベッドの隅へと逃れ、身体を折り畳んで痛みを堪えていると、それは徐々に収まっていき。

 数分後。

 無意識に強張っていた全身の力を抜けば、

「ヴィクトリア……」

 自分を呼ぶ静かな声に、咄嗟にここが兄のベッドだという事実に行き着き。

「……っ い、いやぁっ」

 のろのろとベッドから降りるヴィヴィを、匠海は膝立ちのまま視線と声だけで追い縋る。

「ヴィクトリア、愛してる……っ 俺は、俺は……っ 絶対にお前を手放したりなんてしない」

 その必死な声は、寝室のドアノブを掴むヴィヴィの手さえも止めさせ、

「……――っ」

(……っ どう、して……、どうして――っ!?)

 狂気と紙一重の、兄の自分に対する執着。

 くしゃりと顔を歪めたヴィヴィが、見なければいいのに恐るおそる背後を振り返る。

「今すぐは無理でも、お前は絶対に俺の元へと戻って来る。

 お前は俺がいないと駄目だから――。

 俺がいないと生きていけない――そういう子に仕立て上げたのだからね」
 
 その呪詛は、ヴィヴィにとどめを刺すものだった。

 なのに、それを吐き出す匠海の表情は、あの時と同じ表情で。



『俺はまだ……、ヴィヴィから卒業できそうも、ない……』



 兄としてその言葉を発した時の、

 まるで捨てられる間際の仔犬の様に、淋しげな表情――。

「………………」

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