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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章
2月19日。
フィギュアスケート競技の最終戦――個人女子シングルSP。
ヴィヴィはアイスハウスで入念にメイクを施すと、大型のバンで会場の鏡浦(きょんぽ)アイスホールへと向かった。
関係者入口には各国のメディアやフィギュアファンが押し寄せていたが、ヴィヴィはiPodでSPの音楽を聴きながら集中力を高めていた。
参加選手は総勢30名。滑走順は競技開始時点の世界ランキングにより低い方から15人を先、次の5人を中、残りの10人を後に分け、それぞれの中での抽選により決定される。
最終グループの第6グループ、その2番滑走を引いたヴィヴィが会場入りした頃には、とうに試合は始まっていた。先に会場入りしているはずの村下と宮平の健闘を祈りながら、ロッカールームに貴重品を預けストレッチルームへと向かう。
柿田トレーナーが見守る中、ヴィヴィは粛々と滑るための身体を創り上げていく。それと同時に心を整えることも怠らない。十分に体を温めると、iPodでSPの曲を流しながら床の上で一通りの振り付けを確認していく。
大塚薬品工業から派遣された栄養士や各スペシャリストのお陰で、ヴィヴィの体調はすこぶる良かった。体も軽く膝の調子も問題ない。試合もタイムスケージュール通りに運んでいるらしく、ロッカールームに引き上げたヴィヴィはストッキングを履き、SPの白い衣装に身を包んだ。
『ロッカールームでは、なるべく周りを視界に入れないように』
そうアドバイスをくれたコーチのジュリアンの言葉通り、ヴィヴィはさっさとロッカールームを後にした。そこからはヴィヴィの引率者は柿田トレーナーからヘッドコーチであるジュリアンと、付添をするクリス、スケ連の幹部へと変わる。
廊下でスケート靴を履き、しばらく経って韓国の運営スタッフに「リンクサイドへ」と促される。
(なんか……意外と、淡々としてる……)
最終グループ1番滑走のロシア、エリザベータ・トクタミシェルが滑っているリンクサイドで、ヴィヴィはそんな呑気なことを思いながらう~んと伸びをする。いつもの試合よりリラックスしている……逆に落ち着きすぎて、若干眠くてあくびが出てしまいそうなほど。
トクタミシェルの演技が終わり、彼女が四方に礼を送る。ヴィヴィは首をぐるりと回すと、係員が明けてくれたゲートからリンクへと入った。