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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章
少し冷え始めていた体を温め、日本代表ジャージを脱いでクリスに渡す。一本目のアクセルジャンプの踏切りを確認するため、ステップからシングルアクセルを飛んでリンクサイドへと戻った。
トクタミシェルの得点がアナウンスされる中、ヴィヴィは淡々と水分補給をして鼻を噛んだ。
「リラックス……しすぎじゃない?」
クリスがヴィヴィの状態を鋭く見抜き、釘を刺してくる。
「なんか、ね~」
ヴィヴィは今から五輪という大舞台に向かう選手とは思えないほど気の抜けた返事を返した。が、すぐに小さく笑うとフェンスに置いた自分の左手に視線を落とした。
「なんか、一人じゃないって感じるの。この指輪もあるし……お守りもあるし――」
「ダッドも、兄さんもいるし……?」
クリスが引き継いだ言葉に、ヴィヴィは微笑みを深くして頷く。
「Smile、ヴィヴィ」
何も言わずに双子を見守っていたジュリアンが、そう言ってヴィヴィに微笑んだ。
「じゃあ、行ってきます!」
ヴィヴィは元気にそう言うと、リンクへと飛び出していった。
『다음 스케이터, 일본 대표―― Victoria Shinomiya . The next skater , The representative of Japan ―― Victoria Shinomiya』
大観衆からの歓声にヴィヴィは両手を挙げて応えると、いつも通り時間を使って靴紐やジャンプの軸を確認する。そして最後に衣装の上から幸運のお守りへと触れた。
リンク中央についたヴィヴィは、美しい所作で右胸の上に両手を重ね合わせ左斜め下へと視線を落とす。すっと横に伸ばされた左足の先には、平昌五輪のエンブレムが氷の下で輝いて見える。
数秒後、和太鼓の力強い打音が広大なリンクアリーナへと響き渡った。
その大きな音に呼応して、ヴィヴィの心臓がどくりと音を立てる。
大きく一つ瞬きしたヴィヴィは、朱色のアイラインが引かれた瞳をすっと上げ滑り出す。音楽に乗りスピードを上げると、最初のトリプルアクセルの助走へと入る。
『忘れないで――。激しい曲の中にも、指先やつま先まで芯の通った美しい和の所作を』