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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章
「ある訳ないだろ。俺、男なのに」
いつもより高い位置から見下ろして、匠海が肩を竦めて見せる。
「え? じゃあ、どうして……?」
(何で、『ここ』に来たの……?)
「ヴィヴィの服、買いに来たに決まってるじゃないか」
「私の……? あ、でも、朝比奈が――」
ヴィヴィが先ほど匠海に伝えたとおり、朝比奈がもう夏物服飾一式を手配済みなので、これ以上の服は特に必要ないのだが。
「ヴィヴィって変なところで、根っから『深窓のお嬢様』なんだよな……」
「……え?」
匠海に言われたことの意味が分からず、ヴィヴィは不思議そうに見上げる。
「朝比奈が着させたい『上品な服』を文句なく着続けるし。『渋谷の繁華街は危険だから、遊びに行ってはいけませんよ』と家令に釘を刺されば、歩いて行けるほど近所だというのに15歳になるまで足を踏み入れることもない」
「…………」
匠海に手を引かれて、エスカレーターを乗り換える。
「一見我が儘なお嬢様にしか見えないのに、実のところは周りの期待を裏切って失望させるのを、極端に恐れている」
「…………」
そんな事、考えたことすらなかった。
朝比奈が用意してくれる服は可愛くて、着るのを拒否する理由も見つからなかったし、それほどセンター街に足を踏み入れたいとも思ったことがなかった。
けれど、興味がなかったかと言われれば嘘になる。
BSTで女子がティーン誌を広げていると、こんなにお洒落な服が流行ってるんだなと気になるし、スケート仲間が持っている小物が「道玄坂のショップで買ったの!」と言われれば、テレビでしか目にしたことのない街並みに興味が湧いた。
(そう……なのかな……?)
ヴィヴィはぱちぱちと瞳を瞬かせ、自分を振り返る。
(私……周りの期待を裏切るの、恐いのかな……?)
困ったように眉根を僅かに寄せたヴィヴィに、匠海が苦笑する。
「ま……それだけヴィヴィが『真っ直ぐな良い子』に育ったってことか。保護者の一員として誇らしいよ」
そんな風に褒められて大きな掌でぽんと撫でられれば、ヴィヴィは何だかこそばゆくて首を竦めた。
「そんな……別に『良い子』なんかじゃない。ただ、スケートが忙しかっただけ、なんだけどね……」
3階に着くと匠海が先導し、目的のショップへと連れられた。
「わぁ~……」