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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章
ヴィヴィと同じ位の女子高生が瞳を輝かせて見つめてくる。ヴィヴィは差し出された手を、咄嗟に両手で握りしめていた。握られた女子が「キャ~っ!」と黄色い声を上げて喜んでくれた。
何度もお礼を言われて別れ匠海を振り返ると、二人の周りには10人ほどの通行人が立ち止って遠巻きに見つめていた。
「可愛い~!」「顔小っちゃ~い!」と遠巻きに騒がれるならまだしも、スマートフォンのカメラを向けてくる者までいる。
「お、お兄ちゃん……」
「行こうか……」
匠海がヴィヴィの手を取り、109のほうへ向かって先導していく。ヴィヴィは驚いて咄嗟に匠海の後姿を見上げた。
(手っ! て、手繋ぎ――っ!? い、いいのかな? いいんだよねっ!? 『手を繋ぐ』ぐらい……だ、だって、『デート』なんだし……!)
腕を組んだ経験は正月にあったが、手を繋ぐのは久方ぶりだった。もう数年はそんなことはなかったと思う。兄妹が手を繋ぐのに誰かに言い訳をする必要などないのだが、ヴィヴィは頭の中で「デート」という大義名分を掲げておいた。
109についてエントランスに入ると、ヴィヴィはほっと胸を撫で下ろす。
中はやはり10代の子で賑わっていたが、客は買い物でテンションが上がっているのかヴィヴィ達に注意を払う者はいない。
「ヴィヴィは、本当に有名人になっちゃったな……」
匠海のその感想に、ヴィヴィは何とも言えない表情になり、
「ん~……そうなのかな……」
と曖昧な相槌を返す。
「ま、しょうがないか。で、どこか行ってみたいショップある?」
匠海はヴィヴィの手を引いて、大きなフロアガイドの前に連れて行った。ヴィヴィは地下2階から8階まであるショップ名を下から見ていく。その中に、クラスメイトが見ていた雑誌に載っていたブランド名がいくつかあることに気付いた。
「あ、Luxe Rose……DURASも……LIZ LISAだ……」
目についた名前をぽつぽつと読み上げていると、匠海に手を引かれた。
「お、お兄ちゃん……?」
「3階と5階か。エスカレーターで行くか」
独り言を言いながらすたすたと先を歩き、さっさとエスカレーターに乗ってしまう。手を引かれ付いていくしかないヴィヴィは、あっけにとられて上の段に乗っている匠海を見上げる。
「お兄ちゃん、109来たことあるの?」