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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第7章
「長湯して、風邪ひいちゃったんだって? 困った子だ」
自然に伸ばされた手は、ヴィヴィのまだ幼さが残る輪郭を指先で辿り、
やがて大きな掌全体で、頬を包まれる。
その途端、
ヴィヴィの背筋を、ゾクゾクと何かが通り抜けた。
きっと、熱があるヴィヴィの体には、匠海の手を冷た過ぎると感じたのだろう。
「熱いね……。しんどいだろう、可哀そうに……」
(しんどい、です……)
心の中でそう言ってみるが、匠海には伝わっていなかったようだ。
なぜかプッと吹き出され、ヴィヴィは不思議そうに、瞳だけでその様子を追いかける。
「ヴィヴィ、ほっぺ真っ赤で可愛い。リンゴみたい」
病人に対して、そう不謹慎なことを言って笑う兄に、妹は小さく頬を膨らませて反抗する。
しかしその後、その頬を愛おしそうに さわさわと撫でてくれたので、
ヴィヴィは「まあいいか」と溜飲を下げた。
その後、ヴィヴィが擦った果物を苦心して流し込み、解熱剤を服用したのを確認すると、
匠海は「ちゃんと朝まで、寝てろよ?」とヴィヴィに忠告して帰って行った。
解熱剤と朝比奈の献身的な介護で、ヴィヴィは翌日の昼頃には平熱に戻った。
まだ咽喉は痛いが食欲も出てきて、消化のよさそうなランチを用意して貰い口にする。
「しかし、お嬢様が倒れられたときは、びっくりしました」
朝比奈が給仕をしながら、ヴィヴィに話し掛けてくる。
「学校でのこと?」
「いえ、そうではなくて――覚えていらっしゃらないのですか?」
「…………?」
不思議そうに見上げてくる幼い主に、執事は苦笑した。
「お嬢様は学校から帰られて昼食を取った後、多分バスルームに行かれたのでしょうね。リビングで倒れられていたのですよ?」
「…………え?」
身に覚えのない事に、ヴィヴィは驚く。
全く覚えていない。
夢遊病のように、一人でバスルームに行ったのだろうか?
「本当にびっくりしましたよ。匠海様のお部屋との扉の前で、大の字に突っ伏してらっしゃったので。最悪の事態を、想像してしまいました」
最悪の事態――要するに朝比奈は、ヴィヴィの事を死体と勘違いしたというのか。
困った執事だ。
(って……、あ、れ……?)
小さな頭の中、何かが引っ掛かる。