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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第42章          

 不思議に思いながらトップスを脱いで近くのランドリーバッグに放り投げる。けれどそれはバッグに届かず、手前の絨毯の床に落ちていく。

 パサリ。

 静かなクローゼットの中に、衣類が床に落ちる微かな音が響いた。

 その数秒後――、

『今まで……どこにいた?』

 厳しい匠海の声が、ふと脳裏によぎる。

(え……?)

 ヴィヴィはふっと顔を上げる。

『あいつは――真行寺は、そんなことをする奴じゃない』

 続いて頭の中に響く、感情を押し殺した、苦しそうな匠海の掠れ声。

(な、に……?)

 ヴィヴィは訳が分からなくて、両手で自分の耳を塞ぐが、頭の中の声は鳴りやまない。

『おい、救急車を呼べ! あと、主治医も――!』

 脳内で鳴り響く執事たちの焦った怒鳴り声が耳をつんざくようで、ヴィヴィはギュッと瞼を瞑る。

 するとふっと頭の中の声が消えた。

 背筋につと冷たい汗が伝うのを感じ、ヴィヴィは恐る恐る瞼を開くと耳から両手をゆっくりと離す。

 いつの間にか震えていた両手を、訳が分からず見下ろしたその時――。

 ヴィヴィの灰色の瞳が、限界まで見開かれる。

 目の前に現れたのは、こめかみから血を流し、意識のないぐったりとした匠海の姿。

(―――っ)

「嫌――っ!!!」

 ヴィヴィは華奢な体全身を使って絶叫した。





 


「嫌――っ!!!」

 ヴィヴィが消えていったウォーキングクローゼットの中から、絹を引き裂くような甲高い悲鳴が聞こえた。

 ヴィヴィのリビングにいたクリスと朝比奈が瞬時に顔を見合わせ、クローゼットへと向かう。

 クリスが開いた扉の先、ヴィヴィがキャミソール姿で床に座り込み頭を抱えて叫んでいた。

「おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんっ!!」

 狂ったように匠海を呼び続けるヴィヴィを、クリスが回り込んで前から抱きしめる。

「大丈夫! 兄さんは病院で精密検査もしたし、今はダッド達が付き添って、安静をとって入院しているだけだから!」

「いやあ~っ! お兄ちゃんっ!! どこにいるのっ!?」

「お願いヴィヴィっ。僕の言う事を聞いてっ!」

「嫌っ いやっ!!」

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