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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章           

 その日の夕方。

 一時的に帰宅した母ジュリアンは、ヴィヴィが寝かされた寝室へとやってきた。

 父グレコリーは病院で匠海に付き添っているようで、その匠海も運び込まれて早々に意識を取り戻し、食事もきちんと摂れていることを聞かされ、ヴィヴィは少しだけ安堵した。

「今日、またお兄ちゃんの病院に、行くの?」

「ええ。グレコリーに代わって、私が一晩中付いてるわ」

 ジュリアンの言葉に、ヴィヴィが小さく呟く。

「ヴィヴィじゃ……駄目かな……?」

「え?」

「私がお兄ちゃんに付いてちゃ、駄目かな?」

 ヴィヴィが今度は声を大にして言い募る。

「駄目に決まってるでしょっ! ヴィヴィも階段から落ちた一人なんだからね! それに匠海のことだもの、ヴィヴィが一晩中傍にいたら、逆に心配で眠れないわよ!」

 血相を変えてそう言うジュリアンに、

「そう……だよね……」

とヴィヴィは弱々しく頷く。

(きっと、お兄ちゃん……ヴィヴィの顔も見たくないほど、怒ってるもの……)

「大丈夫よ。ただの脳震盪だもの。ちゃんと匠海にも『ヴィヴィが心配してた』って伝えておくわ」

「うん…………」

「で、ヴィヴィは、大丈夫?」

 ベッドに腰掛けてきたジュリアンの問いかけに、ベッドヘッドに凭れ掛かっていたヴィヴィは、こくりと頷く。

「よかったわ……二人とも、大事に至らなくて……」

 ジュリアンはそういうと、ヴィヴィの体を抱きしめた。その細い体が微かに震えていて、ヴィヴィは両親にも多大な心配と迷惑を掛けてしまったことに、今更ながらに気づいた。

「心配かけて、ごめんなさい……」

 ヴィヴィは素直に謝って、母にしがみ付く。

「馬鹿ねえ。心配するのが、親の役目だっての」

 ジュリアンはヴィヴィを抱きしめたまま、その頭をよしよしと撫でてくれる。

「お兄ちゃん……階段から落ちそうになったヴィヴィを庇って……」

 ヴィヴィが罪を告解するように、苦しげな声で事の顛末を話す。しかしその娘から体を離した母は、くすりと苦笑した。

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