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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第43章
どれほどの時間、自分は泣いていたのだろうか。
どれだけ泣こうが、
手足をバタつかせて喚こうが、
愚図って駄々を捏ねようが、
周りの大人達が無条件に自分の願いを叶えてくれるほど、もう自分が子供でないことも知っているのに。
なのにどうして、自分はこんなにも馬鹿みたいに泣いていて、
どうして涙はまだ止めどなく溢れ出ようとするのだろう。
「………………」
ヴィヴィは防音室の分厚いガラス窓の下にぐったりと凭れ掛かり、流れるままに涙を零していた。
いつの間にか日が落ちていた広大な庭園には、飽くことなく、しとしとと静かに雨が降り注いでいる。
まるで今の自分と同じ――。
そう独り善がりな事を頭の隅で思い、しかし直ぐに打ち消した。
雨は土壌を潤し、動植物が生きるに足る水を提供している。
しかし、自分の涙はただ兄を苦しめる――それだけの役割しか持たない。
脇道に逸れた思考は直ぐに、数時間前から何度も考えている疑問に舞い戻る。
兄は自分のことを心から愛してくれている、それこそ体を張ってまで守ってくれる程に。
なのに、どうして、
何故、女としてだけは見てもらえないのか――?
あの日、確かに兄は自分の躰に欲情し、求められるままに貪った。
それは妹である自分を、『女』として認識しているからではないのだろうか。
けれどどれだけ挑発しようが、兄は私を見ようとすらしてくれない。
また同じところに思考が立ち返り、ヴィヴィの涙もとうとう枯れ果てた。
その瞳の先――桜だろうか、広葉樹の葉がひらりと散っていく。
まだ春先で葉も新緑のままなのに、ここ連日の長雨で、根がやられてしまったのだろうか。
瞼を閉じると、その暗闇の中、ひらり、またひらりと若葉が散っていく。
それは何故か地面に着いた途端、茶色の枯葉へと変容していく。
やがてそこには土と同化する寸前の、枯葉ばかりが敷き詰められていた。