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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第53章          

(はぁ……。練習で飛べないものは、試合で飛べるはずないって、分かってるんだけど……)

 双子の兄クリスとは対照的に、ヴィヴィにとっては、シーズンインまで後『たったの2ヶ月』だった。

 そしてこの日の夕方、『篠宮双子! 今シーズンのFP初披露!』というニュースよりも、『やはり篠宮・妹は3回転アクセル不調!』というニュースのほうが大々的に、各テレビ局で取り上げられるに至ったのだった。

「…………はぁ」

 合宿から帰りの新幹線、ヴィヴィは深い溜め息を付いた。

(真緒ちゃん……、ヴィヴィはまだ、心の鍛錬が足りないようです……。今すぐここから逃げ出したい、です……)

 ヴィヴィはデニムに包まれた細い太ももの上で、ギュッと両手を握りしめる。

 今ここから逃げ出しても何の解決にもならないし、迷惑もかけるとヴィヴィだって分かっている、けれど――、

「…………ふぅ」

(ヴィヴィ……、一体どんな顔して、お兄ちゃんに合えばいいんだろう……)

 匠海と躰を繋げた日の翌朝、

『お兄、ちゃん……、もっと……』

 そう言って寝起きにも拘らず、再度匠海を求めたヴィヴィを、兄は冷静に否定した。

 それが、匠海と顔を合わせた最後――。

 あれ以降、どちらからも電話・メール・手紙等の連絡は、一切していない。

「…………あ゛~~っ」

 ヴィヴィは新幹線のグリーン車にいることも忘れ、不気味な唸り声をあげて文字通り頭を抱える。

 隣に座っているクリスは、やはり疲れているのであろう。iPadに繋げたイヤホンをさしたまま眠っていた。

(もうどれだけ取り繕ったって、飾り立てたって、

 お兄ちゃんは全部、知ってるんだから。

 ヴィヴィは実の兄にまで欲情するような厭らしい子だって、

 身をもって知ってるんだから。

 だからもう、開き直るしかないんだって!

 お兄ちゃんに心の底で嗤われながらも、

 表面上は皆の前で『いい子のヴィヴィ』を演じるしか、

 しょうがないんだって――)

 ヴィヴィはそう自分に言い聞かせるように頭の中で念じると、ぴしゃりと小さな音を立てて掌で両頬を叩いて気合いを入れる。

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