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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第54章         

(ああ……気持ち悪い……)

 ヴィヴィは胸の鼓動が跳ねまくり、そのせいでかだんだん食道あたりに不快感を覚え、篠宮邸へと向かう車の中、自分の胸元に掌を添える。

 もう夜の19時。

 既に匠海は、篠宮邸へと帰宅している。

(とりあえず、『お帰りなさい』って言って、不自然じゃない笑顔を見せて、それから――)

 頭の中で匠海に対面したときのシミュレーションをしていると、高い門扉の内側へと3人を乗せた車は吸い込まれていく。

(あ~……着いちゃったよぉ……。ど、どうしよう……、う、上手く笑えるかな……。っていうか、吐きそう……)

 正面玄関の車寄せに横付けされた車から、母とクリスが下りていく。

 ヴィヴィはこのまま降りたくないなと思って降りることを躊躇していたが、不思議そうに振り返ってきたクリスの視線もあり、しょうがなく後部座席から下車した。

 家令と執事達が巨大な玄関扉を開け放ち、「お帰りなさいませ、奥様方」と出迎えてくれる先、一週間の外出から帰り着いた双子と母ジュリアンを待っていたのは、父グレコリーだった。

「ただいま~っ! My sweet darling ! ムチュ~」

 ジュリアンは父に飛びつくと、熱い抱擁と暑苦しい接吻を交わす。思春期の双子の目の前で。

 双子の小さな頃からずっとこんな調子の両親に、二人は別に何も突っ込まず、一連の再会手順が済むのを静かに待っていた。が、

「あれ……? 匠海はまだなの?」

 父との接吻を終えたジュリアンは、グレコリーから少しだけ体を離し辺りを窺いながら、グレコリーに尋ねる。そんな母をまた抱きしめた父は、その肩の上に顔を埋め、泣きそうな声を上げる。

「匠海、イギリス支社のトラブルで、帰国出来ないって~……。今、連絡あったとこ~。ぐすん」

 そう心底悲しそうに呟いたグレコリーに、

「えぇええ~っ!?」

とジュリアンが絶叫した。

「え? 匠海がポカしたって訳?」

 心配そうに尋ねるジュリアンに、

「まさか。別に匠海が関わっている部署でのトラブルではなかったんだが、フォローは勉強するチャンスになるから、残るって……」

「真面目……」

 父の説明にそう小さく突っ込んだクリスに対し、ヴィヴィはずっと黙り込んでいた。

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