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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第54章         

「あ~あ……。すっごく楽しみに帰ってきたのに、残念~……」

 そう脱力した声を漏らしながら、母は父から体を離した。父は今度は双子に向き合い、相好を崩す。

「お帰り、オチビちゃんたち。ショーは上手くいったかい?」

「うん。大成功だったよ……ね? ……ヴィヴィ……?」

 父に頭を撫でられながら、クリスが隣のヴィヴィに話を振る。

「あ……うん。皆喜んでくれたし、クリスとペア出来て勉強になった」

 同じく頭を撫でられながらヴィヴィがそう答えると、父はうんうんと頷いて3人を招き入れた。

 執事達が3人分の荷物を片してくれたので、4人はそのままディナーを取ることになった。

 ヴィヴィ以外の3人が楽しそうにショーや合宿の話をしている最中、ヴィヴィは箸を手に取りながらも、ぼうと目の前のお造りを見つめていた。

「………………」

 車の中で感じた気持ち悪さはなりを潜めたというのに、何故か体がすごく重く感じて食欲が湧かない。

(なんか……ヴィヴィ……、凄い、落ち込んでる……。がっくりきてる。

 あんなにお兄ちゃんに会うのが憂鬱で、逃げちゃいたいくらいだったのに……)

 皆に聞こえないよう小さく溜め息を漏らしたヴィヴィは、両手で箸置きに箸を置いた。

「ヴィヴィ……? 大丈夫……? 疲れちゃった?」

 いつもと違うヴィヴィの様子に、隣のクリスが心配そうに尋ねてくる。

「あ~、ヴィヴィは『お兄ちゃん子』だから、余計、匠海が帰って来られなくて寂しいか……。おいで」

 父に呼ばれ、ヴィヴィは朝比奈に椅子を引いてもらい立ち上がると、父の所まで歩いていく。何故かその膝の上に座らされ、よしよしと幼児のように頭を撫でられたヴィヴィは、

(ダッド……ヴィヴィのこと、何歳児だと思ってるんだろう……)

と心の中で思ったが、突っ込むのも億劫でされるがままだった。

「元気出せ~。今回は確かに帰国できなかったけれど、朗報もあるぞ~! 8月末に私達が英国に里帰りする時、匠海も同行するってさ」

「……――っ」

 父の膝の上で、ヴィヴィは息を呑んでその顔を見つめる。

(……っ ……ほ、本当……?)

「え……? 本当、ダッド?」

 まるでヴィヴィの心を代弁するかのように、クリスがそう尋ねる。

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