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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章      

「…………ふんっ」

 そうガキ丸出しの効果音を付けて、またそっぽを向いたヴィヴィに、母も爆笑する。たまにクリスの小さな笑い声が聞こえてくる。

(もう……お兄ちゃん、意味わかんないし……)

 心の中ではそう可愛げのないことを呟きながらも、ヴィヴィの薄い胸の奥はドキドキと高鳴っていた。

 久しぶりにこんな近くで、自分に向けられる兄の笑顔を見れた。

 楽しそうに自分を覗き込んでくる、優しい瞳を見れた。

 たったそれだけなのに、単純なヴィヴィは、拗ねている自分が馬鹿らしく思えてくる。

「ヴィヴィ?」

 そう優しく呼びかける声と共に、頭の上に乗せられた匠海の優しい掌の感触に、ヴィヴィは恐る恐る兄を振り向く。

「この前の件は、俺が悪かったよ。言い過ぎた。だから、機嫌直して?」

 そんな優しい謝罪の言葉を口にして覗き込んでくる匠海に、ヴィヴィは文字通り目を見開いた。

「………………」

(お兄ちゃんが『棒っきれ』発言を、謝ってくれるなんて……。び、びっくり……)

「ヴィヴィ? 許してくれる?」

 そう言って端正な顔を少し傾けた匠海の仕草に、ヴィヴィの胸がずきゅんと打ち抜かれる。

(か……っ、可愛い……!! お兄ちゃん……っ!)

 そう心の中で叫びながら匠海に見とれていたヴィヴィだったが、はっと気づいてそっぽを向いた。

(いかん、いかん……。ヴィヴィは☆新生ヴィヴィ☆になるって誓ったんだものっ!

 これしきの事でお兄ちゃんに振り回されていたら、結局前と同じじゃないっ!!)

 心を落ち着けてそう思い直したヴィヴィは、唇に付いているであろう朴葉味噌をおしぼりで拭う。そして、

「そ、そこまで言うのなら……ちょ、ちょっとだけ、許してあげる……」

と小さく呟いた。

「ちょっとだけ、かいっ!?」

 そうすかさず突っ込んでくるジュリアンに、匠海が声をあげて笑う。

「いいよ、マム。長期戦で、ヴィヴィのご機嫌取りをするよ」

 そう言って苦笑する匠海を、

「またそんなこと言って……。あんまりヴィヴィを甘やかさないでね? これ以上我が儘になったら、みんなも困るでしょう?」

とジュリアンが制す。

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