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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章      

「マム。ヴィヴィは明日もFPがあるのに、大丈夫なのか? 俺、部屋に送ってこようか? 食事ならルームサービスもあるし」

 何故か匠海がそう心配そうにジュリアンに尋ねるが、

「大丈夫よ。ただ拗ねてるだけ、なんだから」

とジュリアンは言い放ち「放っときなさい」と、ぴしゃりとこの話題を打ち切った。

「………………」

(むぅ……。拗ねてるのか、ヴィヴィは……)

 ヴィヴィは心の中で思う。

(そうだな~……。最初は『棒っきれ』発言に、本当に怒ってたんだけど……。今は、確かに拗ねてるのかも……)

 そう少し冷静になって考えていると、皆の料理が揃った。

「いただき、ます……」

 ヴィヴィは胸の前で手を合わせると、土鍋の中のカニ雑炊を茶碗に掬い、レンゲで口に運ぶ。

(美味し……。これなら食べれそう……)

 家族の楽しそうな会話の蚊帳の外で、ヴィヴィは黙々と雑炊を口にする。土鍋の半分くらいが無くなって、少し味に飽きてきたヴィヴィが、漬物に箸を付けようとした時。

 何故かヴィヴィの唇の前に、車海老の天ぷらが突き付けられた。

「………………?」

 ヴィヴィは疑問に思いながらも、美味しそうなそれにぱくりと食いつく。サクサクの歯触りに惹かれ、咀嚼して全てを食べたヴィヴィが、エビの尻尾を指で撮みながら、天ぷらが差し出されてきた匠海のほうを振り向く。

「食べた」

 そう言って嬉しそうに笑う匠海に、ヴィヴィは目が点になる。

(………………へ?)

 何が何やら分からないヴィヴィは、ぽかんと匠海を見上げるが、その灰色の瞳はとても楽しそうな色を湛えている。

 そして次は鴨の朴葉焼きを一切れ箸で摘み、ヴィヴィの口元へと持ってくる。

(な、なんで……?)

 何故か兄に餌付けのような真似をされている、今の自分の置かれた状況に、ヴィヴィが内心首を傾げる。

「ほら」

 そう言ってヴィヴィの薄い唇にそれをくっ付けてきた匠海に、ヴィヴィは条件反射で口を開いてしまう。

 半ば強引に口内に鴨肉を放り込まれ、ヴィヴィは訳も分からず、とりあえず咀嚼して飲み込んだ。

「あはは」

 そう声を上げて笑う匠海に、ヴィヴィの頬が徐々に赤く染まっていく。

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