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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章             

「捕まえた~」

 頭上から匠海の声が降ってくる。

 厚めのバスローブの生地越しに兄の大きな掌を感じ取り、ヴィヴィはそこでやっと自分が匠海に抱きしめられていると自覚した。

「なっ!?」

 突然の事に小さく声を上げたヴィヴィが、更にぎゅうと抱き寄せられる。

 視線に入るのは兄の広い肩と襟足の黒髪だけ。

 抱き込まれたヴィヴィの両手には、時折トクトクと規則正しい匠海の鼓動が伝わってくる。

「最近ヴィヴィがつれないから、お兄ちゃんは淋しかったデス……」

 そう冗談めかして言ってのける匠海に、ヴィヴィの頬は更に赤く染まる。

「お、お兄ちゃん……っ 前はヴィヴィから抱きついたら『兄離れしろ』って、い、嫌そうだったのに!」

 必死にそう口にしたヴィヴィに、

「ヴィヴィからは駄目だけど、俺からならいいの」

 そうしれっと返す匠海。

「な、なに、それっ!」

 傍若無人な返事を寄越した兄に、ヴィヴィは「ずるいっ!」っと心の中で叫ぶ。

 自分から「兄離れしろ」と言ったのに、いざ妹が離れて行ったら淋しくなって構いたくなったのだろうか。

「ヴィヴィ、お風呂上りでホカホカして気持ちいい。もうちょっとだけ、こうしてていい?」

 初めてそんな甘えた声を出した匠海に、ヴィヴィの鼓動が跳ね上がる。

 こんなのは途轍もない反則技だ。

 こんな事をされたら、自分はもう『己の気持ち』に気付かざるをえないではないか――。

「も、もう……ちょっとだけ、だよ……?」

 ヴィヴィは内から込み上げてくるものを必死に堪えながら、そう強がってみせた。

 匠海は「了解~」と言うと、妹の洗い立ての髪に顔を埋めてくる。

 心臓がぎゅうと押し潰されそうなほど、苦しさを訴えてくる。

「………………っ」

(お兄ちゃんが、悪いんだから――)

 ヴィヴィはくしゃりと顔を歪ませて匠海の肩に埋める。

 そう、匠海が悪いのだ――そう人のせいにでもしなければ、ヴィヴィはまともでいられなかった。

 おずおずと2人の間に収まっていた両手を動かすと、兄の広くて逞しい背中に腕を回し、そっと手を添えた。

 その途端、匠海に更に腰を引き寄せられた。

 2人を遮るものは己の服だけとなり、さらに身体が密着する。

 そして、「ヴィヴィ」と呼ぶ、少し掠れた甘い声音――。

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