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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第12章
今まで、そんなことを尋ねた経験はなかった。
ヴィヴィは末っ子で甘やかされて育ったからか、自分の事ばかりだったから。
「う~ん。なんだろう、これといって特にないな」
10秒ほど考え込んでいた匠海だったが、返事は予想外なものだった。
「なんだ……。お兄ちゃんも一緒じゃない!」
ヴィヴィが破顔する。
人のことを無欲と言っておいて、妹の欲しいものを先に探ろうとする匠海のほうがよっぽど無欲だ。
くすくすと小さな唇から笑いが漏れる。
「あ、でもあったぞ」
突然思いついたように、ソファーの背もたれから匠海が身体を起こす。
「なに?」
無欲な匠海が欲しがるものだ。
きっとよほど手に入れたいものなのだろうと、ヴィヴィも興味深そうに匠海を覗き込む。
しかし、匠海はヴィヴィのほうに人指さしを向けた。
「ヴィヴィの笑顔」
「………………え?」
「ヴィヴィの能天気な笑顔を見てると、疲れて帰ってきても元気になる」
匠海のあまりにも思いがけない返答に、ヴィヴィは一瞬何を言われたか分からなくなるほど驚いた。
無意識にバスローブを、両手でギュッと握りしめてしまう。
(ヴィヴィ……少しでもお兄ちゃんの役、立ててるんだ――)
もしかしたら最近自分と距離を取ろうとしている妹に対する、匠海なりの優しさ故の返答だったのかもしれない。
けれどヴィヴィの胸の中には、ほんわりと温かい何かが広がっていく。
その何かは、身体中にじわじわと浸透して、やがてヴィヴィは幸せに包まれた。
自然に笑顔が出た。
今までの作り笑顔じゃなく、数ヶ月ぶりに内から湧き出てきた幸福から来る笑顔だった。
「うん。いい笑顔」
そう言って瞳を細めた匠海は、満足そうにそうに笑った。
その瞳には紛れもない妹に対する愛しさが宿っている。
ヴィヴィのほうこそ匠海のそんな素敵な微笑みを見せられて、心臓が鼓動を速めていくのを抑えきれずに困ってしまう。
顔も熱く、火照り始めているのが自分でも分かる。照れ隠しに、
「っていうか、能天気って!」
と両手を上げ、ぽかぽかと殴る真似をしながら突っ込んだヴィヴィだったが、その細い両手首はあっという間に匠海に掴まれる。
そして気が付いた時には、ヴィヴィの全身は暖かいものに包まれていた。
(………………え?)