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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第68章           






 薄暗い寝室の時計が、4時の時を刻んだ頃。

 その大きなベッドの隅、まるで使い古された人形の様に放置された白い躰が、黒いシーツの上でぴくりと動いた。

 数秒後、ゆっくりと持ち上がった瞼から覗いた灰色の瞳は、何度か億劫そうに瞬きを繰り返したのち、やがて凍り付いた様に固まった。

 羽毛布団の中に微かに覗いた黒髪を視界に捉えたその瞳は、まるでギギギと鈍い音がしそうなほど不器用に逸らされた。

 寝返りを打った華奢な躰は、やがてだるそうにその上半身を起こす。

 ベッドの端から白い爪先が床へと着地したその瞬間、脚の付け根からどろりとしたものが溢れ落ち、黒いシーツを汚した。

 一瞬の躊躇の後、ベッドサイドのティッシュに伸ばされた指の先、見慣れないボトルが置かれていた。

 透明なジェルのようなものが満たされたそれを手に取り、ラベルを確認するように表裏を返すと、またベッドサイドに戻された。

 ティッシュでシーツの上の白濁を拭い取りくしゃりと握りしめると、床に落ちている白いバスローブを拾い上げる。

 全裸のまま暗い寝室を後にし、リビングを抜け、隣の私室に戻ったヴィヴィは、音ひとつ立てずに二人の境界線の扉を後ろ手に閉めた。

 その細く白い太ももに、新たにどろりとしたものが伝い始めた。

 ヴィヴィは迷わずバスルームに入ると、湯を湛えていない空っぽのバスタブの中に座り込んだ。

 目の前の使い慣れた黄金色の細長い栓を捻ると、頭上にあるシャワーヘッドから暖かい湯が勢いよく降り注いでくる。

 白い湯気を上げたそれは、冷え切った金色の頭の先からその白く細い爪先まで、じんわりとと温めていく。

 濡れた髪が重くて俯いたヴィヴィの顔が、折り曲げられた両膝の間にゆっくりと落ちていく。

 やがてそこに顔を埋めたヴィヴィは、静かに瞼を閉じた。

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