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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第69章          

(うっ うそ……っ 朝比奈っ!?

 えぇ……っ! か、鍵は――!?

 あ、そっか……。お兄ちゃんが閉めたんだった……)

 ヴィヴィは瞬時にバスルームの扉に視線を移すと、施錠を確認する。

「お嬢様? 起きられたのですか?」

 続く朝比奈の言葉に、ヴィヴィは真ん丸に見開いた灰色の瞳を、匠海へと向ける。

 ヴィヴィの大きな瞳は動揺で落ち着きなく細動し、躰全体が小さく震えていた。

 匠海は自分の唇に人差し指を当てて頷くと、ゆっくりとヴィヴィの唇を覆っていた掌を外した。

 戸惑ったように自分を見上げてくるヴィヴィに、匠海が口の前で軽く握った拳を開き、「返事しろ」と促してくる。

「え……っと、……あ、そう! 目、覚めたのっ」

 ヴィヴィは咄嗟にそう返事を返す。

(あ……っ!? そう言えばっ! 

 朝比奈、30分後に起こしに来てくれるって、言ってたやっ! 

 ヴィヴィの馬鹿~っ! そんな大事な事、忘れちゃうなんて――っ!!)

「そうですか、……苦しそうな声が聞こえましたが、大丈夫ですか?」

「あっ 大丈夫……っ えっと、足の小指、角にぶつけちゃって!」

「えっ!? 爪、割れていませんか?」

 朝比奈がそう気遣うのも分かる。

 スケーターは足の爪ひとつ痛めただけでも、致命傷となる。

「うん、大丈夫! ゆ、指は痛かったけどっ」

「そうですか、次からは気を付けて下さいね」

 ヴィヴィの咄嗟の言い訳に、心底心配してくれたらしい朝比奈の、ほっとした声が返ってきた。

 つきり、と胸に見えない透明な棘が刺さった気がした。

「うん……。あっ! ヴィヴィ、もう大丈夫だから、朝比奈も休んで?」

「お嬢様、すぐにバスタブで寝られてしまうので、上がられるまでお待ちしております」

 そして翌日に熱を出し、朝比奈の世話になったことのあるヴィヴィは、「あ゛ぁ~っ!!」と心の中で頭を抱える。

「だ、大丈夫……! 目も覚めたし、お風呂に浸かりながら50通くらい『あけおめメール』の返信するから、多分凄く時間掛かっちゃうしっ」

「そうですか? 分かりました。では、くれぐれも気を付けてくださいね?」

 そう納得してくれた朝比奈に、ヴィヴィは心底ほっとした。

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