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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「なぁ……どうする?」
「……」
僕は不思議と怖いとは思わなかった。
目の前には僕に心の傷を穿った人がいて、向けられたナイフの刃はとても鋭く思え、少しの力でも僕の身体を切り刻むことができるのだろう。
そうは思うし決して脅してるという様子もなく、何らかのきっかけで彼女は躊躇なくナイフを振るう。そう感じさせるだけの、殺気を孕んでいた。
なのに――どうしてかわからないけれど、視界は開けていって――僕は今まで見えなかったものが、見えてゆくのだと感じている。
「あの日みたく――私のこと、殴るわけ?」
僕のぎゅっと握りしめた右手を見て、彼女は訊ねていた。
「かも、しれない。木織のことは、守りたいから」
僕は答えて、その後にこう続ける。
「――だけど、本当はそんなことしたくないんだ」
それは、あの時だって――。
「ウフフフ――お互いに、ここまで過去を穿り返しといて、今更――笑顔で和解でもしろと、そういうわけにもいかないんじゃない?」
「それも、そうなのかもしれない。だから、よくはわからないけども――僕は、思うんだ」
「ああ――?」
「僕が不幸だと感じるのは、僕のせいで――それは貴女だって、同じじゃないのかって」
「なん、だって……?」
彼女は驚いたように、その顔をしかめた。
けれど、僕はわかる気がした。でなければ、何故、彼女は――?
あの家を訪ねたり、今だってナイフまで持ち出して――それはやはり、彼女自身が強くこだわっているから――。
否――消せないで、苦しみ足掻いてるんだ。
「……」
そう思うから僕は、もう一度だけ拳を強く握り――意を決する。