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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
期せずしてその頬を叩かれていた彼女は、暫し呆然と驚いて――しかし。
「くっ、このぉ……」
すぐに眉間に皺を寄せ険しい顔つきに変わると、木織を睨んだ目がギラリと怪しい光を帯びた。そこはかとなく危険な眼差しを向ける。
そして、怪しい光と緊迫感を孕んだのは、なにもそれだけには留まらずに――。
シュルル――パキン!
背後に回した右手が、それを器用に操ると――飛び出したのは、鋭い刃。たぶん、バタフライという名を冠した、危険なナイフだった。
「――!」
思わずたじろいだ木織の、その顔をまじまじと眺め――彼女の口角がくっと吊り上がってゆく。
「さ、どうするのぉ? 後ろの役立たずなんか置いて、さっさと逃げた方が――よくない?」
その問いに対し――
「……」
木織は何も答えなかったけれど、踏みしめた両脚は一歩も動かない――その意志を示した。
それを見た僕は胸は、かっと熱くなっていって。だってそれはもう、十分過ぎて、勿体ないんだ。
今だって木織のお蔭で――ようやくと、立ち上がることができた。僕はそれを痛感しているから――それは、この心より。
今まで、庇ってくれて――
「――ありがとう、木織」
そう言って、細いその腕を引き寄せると、木織のことを今度は僕の背中に隠す。その刹那、木織が僕のシャツをきゅっと掴んだのがわかった。
その様子を見つめた彼女の眦が、ぴくりと動く。
「なんだよ……やる気なの、か?」
右手のナイフを突き出すようにして、僕を前にした彼女が身構えている。