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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく

「そ、それで……?」


「私が心配してその人の顔を仰ぐと、その度に『大丈夫だから』と言った。逆光になった顔はよく覚えてないけど、その時にニッと笑った歯が異様に白く見えて、それが後まで強い印象として残ってしまった」


 そう聞いた僕は、思わず訊ねる。


「まさか……そのまま、誘拐されたとか?」


 しかし、木織はまたゆっくりと首を振って、その懸念を否定した。


「ううん……車に乗せられる寸前で、私が大泣きしたから。それを聞きつけた駐車場の警備の人が、駆けつけてくれたの」


「そ、そっか……」


 過去の話とはいえ、僕はホッと胸を撫で下ろしている。だけど、幼い時の木織にしてみれば、それがどれだけ怖かったのか、わからないのだ。

 実際に――木織は、こう話しを続けた。


「それから私――例え両親と一緒でも、外出するのは怖くって。当時住んでたアパートの部屋から、ずっと出られない日が続いたの。またあの『白い歯のおじさん』が迎えに来るからって……」


「でも、今の家に来てからは、すぐ一緒にこの公園で遊んだりしてたような……?」


「ふふ、だからぁ――それが、このカードのお蔭なの」


「え?」


「両親も困ったでしょうね。せっかく家を新築したのに、娘がアパートの部屋から動こうとしないんだから。でも流石にもう無理にでも連れて行かなければならない時が来て、私は泣きながら初めてあの家に来ていた。それが――」


「僕と会った――あの時?」


「そう――」


 木織は頷き――


「憶えてる、よね?」


「うん……」


 僕は答え、たぶん僕と木織は、同じ光景を頭に浮かべた。

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