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エブリデイ
第5章 それは歪であるが故、何物にも代えがたく
「私、小さなころ――とても、怖い想いをしたことがあったの」
それは木織が僕の向かいの家に越してくる、その前。三歳になったばかりの木織が、両親に連れられてデパートに買い物に出かけた時の出来事だという。
その日は休日で、デパートでは子供向けのイベントが行われ。多くの人波に揉まれた挙句、気づけば木織は両親とはぐれてしまったようだ。
そんな時に――
『お嬢ちゃん、おじさんがパパとママのところに、連れてってあげよう』
見知らぬ男がそう言って、困惑する木織の手を引いていた。
「妙だとは思ったけれど、とにかく早く両親のところに戻りたいって気持ちの方が強くて――でもすぐに、その男の人は人の流れに逆らうように、デパートから出ようとしているのがわかった。照明の暗い屋内の駐車場を歩いてると、私の不安はどんどん膨れていったわ」
当時を思い返してか、木織の声が心細さに震える。