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エブリデイ
第3章 意識した瞬間から
数時間後。
カリカリ。シャッ、シャッ――と。
僕のアパートの部屋に聴こえているのは、何とも味気ない作業の音色だった。
僕は窓脇のデスクに向い。寺井は部屋の中央に置かれた脚の短いテーブルの前で、立膝をして床の上に座っている。
そうして二人がしている作業は作画。僕たちは今、必死に漫画を描いていた。
とはいえ、もちろんプロの漫画家とかではなく。僕たちは大学のサークル(漫研)の仲間である。端的に言えば、いわゆるオタサーというやつ。
書いている原稿は、再来週のコミケで販売する同人誌用のもの。サークル単位ではなく、僕と寺井、それと山岡と加藤の四人での初めての参加だった。
すなわち四人は何というか、その手の趣味が合う訳で。前々から四人で同人誌を作ろうなんて言ってはいたが、ホントにこうなるとはちょっと想定外だ。
僕や山岡や加藤は、漫画を描いた経験に乏しい。自己満足の落書きとは異なり、当たり前だけどちゃんとした原稿を仕上げるのは凄く大変だ。
今回の同人誌制作の多くの部分で、寺井に頼る処は大きい。彼女は僕らとは違って、普段から次作の漫画を趣味で書き連ねているような人間だ。
だから僕たち三人は、そこにある種の引け目を感じ始めていたのも間違いないだろう。もしかしたら今日、山岡と加藤が来なかった理由も本当はその辺りにあるのかもしれない。
「……」
僕は手を止めると、寺井の手慣れた手さばきを、ボーっと見つめる。