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終わらない夢
第2章 現の夢(うつつのゆめ)
「…私の母と父は再婚同士で、私は母の連れ子でした。継父にも二つ下の息子がいて…。連れ子同士、小さい頃から、姉弟として仲良く暮らしていました。」
知夏はゆっくり、記憶を辿るように話はじめた。
「去年、私が大学に受かりました。家から通える距離なのに弟から一人暮らしを進められました。理解できなかったのですが、説得され家を出ることにしたんです。」
時々、悲しげに苦しげに嗚咽を漏らす。
少しでも気持ちが和らぐように、頭を撫でる。
「…アパートも決まり、引っ越しも済み、大学生活が始まった。勉強も楽しかったし、友人もできた。…ある日、弟が遊びに来たの。夕方、蝉がうるさく鳴いていた…。私は、弟を部屋に上げ麦茶を出した。氷を入れて…。他愛もない話をしていて、気がついたら…。」
知夏は目を閉じ、涙を流す。
何かに耐えるように、自分の背中に回した手に力を込める。
「…弟は、無理矢理、私を…。」
細い肩を抱き締める。
数時間前に会った、この娘を。
「…必死に抵抗した。私の力では、限界だった…。私、弟に…レイプされたの。」
震える身体をゆっくりと擦る。
「…逃げようとしたけど、出来なかった。怖くて、怖くて…。弟に酷い言葉を沢山投げつけた。責め立てた。そのうち、自分の中の時計はあっという間に過ぎて行ったの…。明け方、母から連絡があって父が弟に殺されて弟が…自殺したって…。」
言葉に詰まり、呼吸が荒くなる。
「二人の葬儀を終えた頃、母は飲まない酒を浴びるように飲み、私をいつも責め、辛く当たってきた。私も、きっと弟を自殺に追いやったのは自分だと…。」
「…でも、君に落ち度はなかったんじゃないかな?」
「…今となっては、わかりません。何故、私をレイプしたのか。継父を殺したのか。…自殺したのか。それ以来、私は男性が怖くて…。酔っぱらいに絡まれてるだけで、目眩と頭痛が酷くて。あれ以上は抵抗できなかった。」
「僕も、男だけど?」
「…仲村さんは、最初からとても優しくて怖くなかった。…何でかしら…。」
少しだけ、首を傾げる。
その姿が可愛らしく思える。
「それに、初対面の人にこんな話をしてしまって…。あの…仲村さん。」
「…なに?」
「…嫌いに、ならないで下さい…。」
「大丈夫だよ。嫌いになんか、ならないから…。」