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終わらない夢
第2章 現の夢(うつつのゆめ)
 知夏は広いベッドなのに、端の方で丸くなりながら寝入る。

 自分はとりあえずソファに座り、この状況を整理する。

 なんて、無防備なんだろうか。

 初対面の男とラブホに入り、こんなにグッスリ眠れるなんて。今までも、こんなことをしているのだろう。

 喉が渇き、部屋に設置してある自動販売機で水を買う。

 時々、苦しそうな寝息と共に寝返りをうつ。

 色白の肌に黒髪がまとわりつく。

 様子を見ながら、そっと頬の毛を払い顔を覗く。

 整った顔に、苦悶の表情を浮かべている。寝言か、何やらブツブツと呟いている。
 額に脂汗が滲み出ていた。

 室内にあるタオルを濡らし、額や露になった首筋を拭く。

 その冷たさに、知夏は薄ら目を開ける。

 眉をしかめ、そのうち肩を震わせる。

「…ごめん。あまりにも、辛そうだったから。水、飲むかい?」

 飲みかけの水のペットボトルを差し出す。

「今、何時ですか?」

 ペットボトルを受け取り、辺りを見渡す。

「二時過ぎだよ。」

 息を吐き、一気に水を飲む。

 その、喉元があまりにも美しく、飲み込む動きに妖艶さを感じる。

「…本当にすみません。」

 彼女は申し訳なさそうに、頭を下げる。

 若いわりには挨拶もしっかりしている。

「いや。とりあえず、寝て。始発には乗りたいんだ。」

 空のペットボトルを受け取り、ソファに寝転ぶ。

「…ベッドで寝てください。私が無理矢理、誘ったんですから…。」

「いいよ。大丈夫。君がベッドで寝ていいから。」

 目を閉じる瞬間、彼女は自分に抱きついてきた。

「一緒に、一緒に寝てください。」

「…君。」

 泣いているのか、肩が震えている。

 まるで、子供だな。

「…一緒に寝るだけだよ?」

 胸に顔を埋めて、小さくうなずく。

「家に帰ったら、病院に行きなさい。傷が深いから。それと、君はこんな見ず知らずの男に簡単についていったらいけない。僕だって、無害に見えて冷静になれない時もある。」

「でも、今は優しい。」

 腕を背中に回し、優しく抱き締める。何故だか、沸き起こる愛しさに胸が熱くなる。

「…私を助けてくれた時から、貴方は優しくしてくれるってわかってた。」

 自分を覗き込む、焦げ茶色の瞳は淀みなく澄んでいる。

 綺麗だ…。

 この、感情を何と呼ぶのだろうか。

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