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終わらない夢
第2章 現の夢(うつつのゆめ)
 その夜は明け方まで、二人抱き合って眠った。

 その日に出会い、その日に知夏の心の中を知り、その日に自分は心から愛しい人をみつけてしまった。

 麻友子を、妻を嫌いなわけではない。

 ただ、それ以上に想い守りたいと思う人が出来てしまった。

 家庭を守れないくせに。

 妻を、子供を大切にしないくせに。

 知夏を大切にしたいと思ってしまった。



「また、会いたい。」

 始発電車が動く頃、ベッドから起き身支度をする。知夏は、静かに囁く。

 きっと、同情や憐れみだろう。

 守りたいなんて、烏滸がましい。

 携帯の電話番号とメアドを交換する。

「電話は出られないから…。」

「…奥さんがいるから?」

「そうだね。」

「…大丈夫。迷惑はかけないから。仲村さん…。本当にありがとう。」

「…君は、自分を責めているんだね?弟が自殺したこと、弟が父親を殺したことを。無責任な言葉をかけたくはないけど、自分をあまり責めないで欲しい。もう少しだけ、自分に優しくしてあげてみたら?」

「自分に優しく?」

「…とりあえず、君は沢山傷ついてる気がする。ゆっくり休んで。」

 

 こんな風に、知夏と出会った。

 半年前の秋の風が、街路樹を揺らす頃。

 多分、一目見た時から惹かれていたんだろう。でもそれは自分の中で、誤魔化し欺いた。

 麻友子の為に。貴史の為に。

 見合いで麻友子と結婚して約十年。何の不満も無く、家庭を築けたと思う。

 仕事から帰れば、美味しい料理に片付いた部屋。元気一杯の一人息子。美しく、優しい母親の麻友子。

 何の不満もなく…。いや、一つだけ。

 麻友子との、セックスレス以外完璧な家族を演じていた。

 最初は麻友子の意図がわからなかった。

 子供が産まれ、ようやくこの家族の意味を知る。

 麻友子にとって、自分はただの種馬にしかすぎない事。

 麻友子は自分の産み落とした子供だけが、必要だった。貴史だけが、必要だったんだ。

 それは、幼い頃に両親を亡くし血縁がいない麻友子の悲しい願い…。

 自分の血の繋がった、家族が欲しい。

 家族ごっこの理解しがたい理由に、自分は流されていた。

 しかし、知夏との出会いに何かを感じた。

 ただの性欲を吐き出す相手ではない。

 それは、忘れていた遠い記憶の中にある…小さな、愛だった。
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